ヒプノシスマイク-Dream Rap Battle-

カードストーリー 山田一郎 H歴元年
岸本さん

TRACK 1

――イケブクロ 西口公園(夕)

波羅夷空却

へへ! ごっそさん! サバ味噌定食うまかったぜ!

山田一郎

チッ……。 あと少しで勝てたンだけどな……。

波羅夷空却

拙僧の恐竜への愛が、紙一重の差で 勝利を掴み取ったってワケだ!

山田一郎

いつか必ず借りを返してやるぜ!

波羅夷空却

おう! 拙僧は逃げも隠れもしねぇ! いつでも勝負を受けてやるよ!

山田一郎

……つーか、今更だけどよぉ お前恐竜好きだったんだな。

波羅夷空却

おう! 正確に言えば「絶滅動物」全般が好きなんだよな!

山田一郎

絶滅動物か。わかる気がすんな。 なんつーかロマンがあるよな。

波羅夷空却

さっすが一郎! わかってんじゃねぇか。 男に生まれたからには、ロマンっつーのは 命の次ぐれーに大事だよな!

山田一郎

まぁ男に生まれたからっつーのはわかんねぇが……

山田一郎

お前、絶滅動物以外になんか好きなモンあるのか?

波羅夷空却

なんだぁ? ンなモン知ってどーすんだよ?

山田一郎

ダチに好きなモン聞くのは別に普通のことだろ……。

波羅夷空却

確かにそうだな!

山田一郎

んで、何が好きなんだよ?

波羅夷空却

そうだなぁ……。 唐揚げとか、山登りとか、漫画とか色々あんな! まぁロマンを感じられるモンは全部好きだぜ!

山田一郎

漫画と山登りはまぁわかるけどよぉ…… なんで唐揚げにロマンを感じるんだ?

波羅夷空却

わかんねぇよーなら お前は男としてまだまだってこったぁ! ヒャハハ!!

山田一郎

はぁ……。

波羅夷空却

まぁ他には人智を超えたような不思議な出来事とか、 宇宙とかそういった類のことにロマンを感じるな!

山田一郎

なるほどなぁ。

波羅夷空却

なんか不思議なハナシとかねぇのかよ?

山田一郎

不思議なハナシねぇ……。

山田一郎

ああ、そういえば……。

波羅夷空却

お! なんかあんのか?

山田一郎

こないだ、ちょっとした依頼で行った マンションが変だったんだ。

波羅夷空却

どーいう風に変だったんだよ?

山田一郎

見た目は普通のマンションなんだが、妙なルールが あってな。そのルールってのが、夜の0時から3時まで 住人の外出は禁止っつーんだ。

波羅夷空却

確かに妙なルールだな。 つーか、0時以降に帰宅した場合はどうなんだ?

山田一郎

その場合は3時になるまで 自分の部屋に戻れないってことらしい。

波羅夷空却

そんなうざってぇルールがあるトコなんざ 金もらっても住みたくねぇぜ。 てか、なんでそんなことになってんだ?

山田一郎

俺も張り紙を見ただけだからよくわからねぇんだが…… どうやら0時から3時の間にマンションに入ると 「岸本さん」っていう女が声をかけてくるらしい。

波羅夷空却

「岸本さん」だぁ? そいつが声をかけてきたからって何が困るんだよ?

山田一郎

だから俺もよくわかんねぇんだって。その張り紙によると 声をかけられたら振り向かずにマンションの外に出るか、 近くの部屋に逃げてくださいって書いてあったな。

波羅夷空却

へぇ、おもしれぇじゃねぇか! そのマンションちけぇのか?

山田一郎

あ、ああ。歩いて20分くらいのトコだな。

波羅夷空却

っしゃ! もうちょっと時間潰して、0時になったら そのマンションに行ってみようぜ!

山田一郎

許可取らねぇと不法侵入になっちまうぞ……。

波羅夷空却

その依頼主に連絡して、そいつん家に行くテイに すりゃいいじゃねぇか! こいつは決定事項だ! 拒否権はねぇ!

山田一郎

はぁ……相変わらずむちゃくちゃな野郎だぜ……。 わーったよ。聞いといてやる。

波羅夷空却

へへ! 俄然楽しくなってきやがった!

――イケブクロ とあるマンション(夜)

山田一郎

ここがそのマンションだ。

波羅夷空却

へぇ、ここが噂の現場ってか。 別にどこにでもありそうなマンションだけどなぁ。

山田一郎

そういえばお前、寺の息子だろ? ここが心霊系のナニカだったらわかるのか?

波羅夷空却

まぁヤバい怨霊とかがいりゃーわかるが、 ここからはなんにも感じねぇ。

山田一郎

ってことは幽霊とか そういった類のもんじゃねぇってことか。

波羅夷空却

あと30分で0時過ぎっから早く中に入ろうぜ!

山田一郎

おう!

――……

――エントランス

山田一郎

その張り紙がそうだ。

波羅夷空却

……確かにお前が言ってた通りのことが書いてあんな。

波羅夷空却

お、住んでる奴が来たっぽいな。話しかけようぜ!

波羅夷空却

よぉ! ちょっといいか?

男性居住者

はい?

波羅夷空却

ここの張り紙に書いてある 「岸本さん」って女はなんなんだ?

男性居住者

っ! さ、さぁ……。 自分もよくわからないんです……。 もう遅いのでこれで失礼します……。

――足早に去っていく居住者。

山田一郎

なんか知ってそうな雰囲気だったな……。

波羅夷空却

だな。へへ! 益々面白くなってきたじゃねぇか!

山田一郎

んじゃ、早速見てまわろうぜ!

波羅夷空却

おう!

TRACK 2

――廊下

山田一郎

ん?

波羅夷空却

どーした?

山田一郎

メールだ……。 …………空却、一旦俺の依頼者の部屋に行こうぜ。

波羅夷空却

あん、なんでだよ?

山田一郎

話したいことがあるらしい。

波羅夷空却

まっ、別にいーけどよ。

――依頼者の部屋

山田一郎

遅くにすんません……。 こいつはダチの波羅夷空却です。

波羅夷空却

おう! よろしくな!

依頼者

あ、はい。よろしくです。

山田一郎

それで……? 話っていうのは……ここのルールのことですよね?

依頼者

はい……。

波羅夷空却

ずいぶん妙なルールだよなぁ。一体なんなんだ?

依頼者

正直……自分も最初は訳がわからなくて…… 大したことないだろうとタカを括っていたんです。

山田一郎

実際に何かあったんすか?

依頼者

ええ……。 引っ越して来て間もないころ、 コンビニに夜食を買いに出たんです。

依頼者

ちょっと雑誌を立ち読みしてしまい、戻って来たのが ギリギリの23時57分で。

波羅夷空却

まぁこの部屋は5階だし、急げば間に合う時間だな。

依頼者

はい。 ……けど、自分にはあまりこのルールを 守ろうという気がなかったんです。

依頼者

それでダラダラ階段で戻ったんですが…… 5階に着いたときには0時を過ぎてしまっていました。

山田一郎

……それで?

依頼者

……空気が変わって、下から何かが凄まじい速さで 駆け上がってくる音が響いてきたんです……。 自分は急に恐ろしくなって一目散に部屋まで逃げました。

山田一郎

無事に戻れたんですか?

依頼者

はい……。

波羅夷空却

……何に追われたんだ?

依頼者

後ろを振り向かなかったのでわかりません……。

波羅夷空却

じゃあ気のせいかもしんねぇじゃねぇか。

依頼者

いえ……気のせいじゃないと思います……。

山田一郎

……なんで言い切れるんすか?

依頼者

玄関で息を整えていたんです…… すると扉の奥から……

依頼者

「あたしもそこに入れて……あたしもそこに入れて…… あたしもそこに入れて……あたしもそこに入れて……」 ってずっと聞こえてきたんです……。

山田一郎

……。

波羅夷空却

……。

依頼者

あのまま追いつかれていたらどうなっていたか……。 まだ間に合うのでお帰りになられた方が……。

波羅夷空却

へへっ! おもしれぇじゃねぇか! ソレがなんなのか突き止めて、やべぇモンだったら 拙僧がなんとかしてやるぜ!

依頼者

ほ、本当にそんなことできるんですか……?

山田一郎

こいつはこう見えて寺の息子なんです。 まぁなんとかなりますよ。

波羅夷空却

おう! このマンションを極楽みてーに住みやすくしてやる! なぁ一郎ぉ?

山田一郎

だな!

依頼者

待ってください。

一郎/空却

依頼者

……やばい時は他の部屋に逃げてくれって 言われているんですが、その際絶対に315号室にだけは 逃げ込まないでください……。

山田一郎

なんでっすか?

依頼者

自分もわからないんですが、住人の間でも あそこの部屋には近づかない方がいいという 話になっているんです……。

波羅夷空却

誰か住んでんのか?

依頼者

誰も住んでないです……。

依頼者

その部屋は鍵が壊れていて誰でも入れるように なってるんですが、管理会社は直す気がない…… というか、あの部屋に近づきたくないみたいです……。

山田一郎

……。

波羅夷空却

まっ、一応覚えとくわ!

依頼者

くれぐれも気をつけてください……。

波羅夷空却

んじゃ行こうぜ!

山田一郎

お邪魔しました。

――廊下

山田一郎

どーする空却? 315号室にいけば何か起こるかもしれねぇぞ?

波羅夷空却

いきなり本丸に突入しても面白くねぇ! とりあえずマンション内を見て回ろうぜ。

山田一郎

ああ、わかった。

――……

山田一郎

特に変わったところはねぇな。

波羅夷空却

ああ、なんてことはねぇ。 フツーのマンションだな。

山田一郎

後10秒で0時だ。

波羅夷空却

へへ……何が起きるか楽しみだ。

山田一郎

4……3……2……1……。

一郎/空却

っ!?

山田一郎

な、なんだ……急に空気が変わった……。

波羅夷空却

ま、まじかよ……。

山田一郎

……どーしたんだ?

波羅夷空却

これは相当……やべぇかもしんねぇぞ……。

TRACK 3

山田一郎

やべぇ……って何がだよ……?

波羅夷空却

さっきまでなんにも感じなかったンだがよぉ…… 0時越えた途端に禍々しい怨念が このマンション全体から湧き出てきやがった……。

山田一郎

そんなにやべぇのか……。

波羅夷空却

ああ……。 ここの住人がいつ犠牲になるかわからねぇ……。 元凶を祓ってやんねぇとな……。

山田一郎

できんのか……?

波羅夷空却

任せとけっていいてぇとこだが……。 やってみねーとわからねぇ……。

山田一郎

……お前が自信ねぇのは珍しいな。 そんだけやべぇってことか……。

波羅夷空却

まぁやるだけやってみるわ……。

山田一郎

……じゃあまずはどうすんだ?

波羅夷空却

315号室にいくぞ。

山田一郎

確かに……。 そこになんかあるかもしれねぇな。

――階段

山田一郎

……霊感とか全然ねぇ俺でも すげぇ嫌な空気だってのがわかる。 一刻も早くここから出てぇって、本能が叫んでる感じだ。

波羅夷空却

だろうな……。 常人なら走って逃げてるだろうよ。

波羅夷空却

逃げねぇのは流石一郎ってトコだな。

山田一郎

ダチを置いて逃げれるわけねぇっての。

波羅夷空却

安心しろ。 何があっても拙僧が助けてやっからよ!

山田一郎

はっ! 言ってろ! 逆にお前が危なくなったら助けてやるよ!

波羅夷空却

へっ! んじゃそんときは頼むぜ。

――315号室前

波羅夷空却

この部屋……マジか……。

山田一郎

そんなにやべぇのか……?

波羅夷空却

やべぇなんてモンじゃねぇ……。 拙僧が今まで見てきた中で随一の禍々しさだ……。

山田一郎

……。

波羅夷空却

こいつは拙僧の手にはおえねぇ……。 早くここから逃げた方が――

岸本さん

私…………岸本。 ……私も連れてって…………。

一郎/空却

っ!

岸本さん

私も…………連れてって…………。

波羅夷空却

一郎……何があっても振り向くんじゃねぇ……! そんで絶対に返事すんな!

山田一郎

したらどうなんだよ……?

波羅夷空却

最悪死ぬぞ……。

山田一郎

マジかよ……。

岸本さん

私も……一緒に行くから……。

一郎/空却

……。

岸本さん

なんで……こっち見てくれないのぉ……?

一郎/空却

……。

岸本さん

じゃあ私が……あなたたちの前に行く……

波羅夷空却

っ! 一郎! 部屋の中に入るぞ!

山田一郎

この部屋に? ……いいのかよ?

波羅夷空却

今くたばるよりマシだ!

――315号室 玄関

波羅夷空却

……まさかあんなやべぇヤツが徘徊してるなんてな。

山田一郎

人間……じゃねぇのか?

波羅夷空却

いや、あれは怨霊だ。それもとびきりぶっとんだ やべぇヤツだ……。普通は生きてる人間にあれだけ 干渉できねぇはずだが……。あんなの初めてだぜ……。

山田一郎

よくわかんねぇけど、 俺らが喧嘩したら勝てるんじゃねぇか?

波羅夷空却

怨霊に物理攻撃が効くかよ……。

山田一郎

気合いがありゃ、なんとかなりそうだけどな……。 つか、ヤツはなんでこの部屋に入ってこねぇんだ?

波羅夷空却

おそらく、なんらかの縛りがあるんじゃねぇか?

山田一郎

縛りだぁ?

波羅夷空却

あんだけの呪力を持ったヤツだ……。 このマンション内の部屋には入れねぇんだろ。 そういう縛りを設けてあれだけの力を得たんだろうな。

山田一郎

なるほど……。 だから部屋から出るなっていう注意書きなんだな……。

波羅夷空却

……ヤツからは一旦逃げれたけど、 また別の窮地に立たされちまったな……。

山田一郎

この部屋か……。 別になんてことのねぇ普通の部屋だけどな……。

波羅夷空却

リビングの方から ビシビシやべぇオーラが漂ってきてる……。

山田一郎

行ってみるか……。

――315号室 リビング

――リビングに謎の祭壇がある。

山田一郎

な、なんだこれ……?

波羅夷空却

……どーやらこの祭壇が原因で、 あの怨霊が力を持ったみてーだな。

山田一郎

じゃあこいつをぶっ壊せば……。

波羅夷空却

止めとけ……。 下手に触ったら何が起こるかわかんねぇ……。

山田一郎

そーいうモンなのか……。

波羅夷空却

普通、祭壇っつーのは神さんを祭るモンだが、 これは何かを呪うためだけに作られた代物だ。

山田一郎

何かって…………まさかこのマンション……?

波羅夷空却

だろうな……。 ここまで強い呪いをかけたってことは 代償もかなりのモンだっただろうに……。

山田一郎

……代償?

波羅夷空却

これは推測だがよぉ、あの「岸本」ってヤツがこれを 作ったんじゃねぇか? 代償はテメェの命。 ……自らを怨霊としてこのマンションを縛った……

山田一郎

一体何があったんだ……。

波羅夷空却

さぁな……。

――玄関のほうで凄まじい音が響く。   ドタドタと足音が近づいてくる。

一郎/空却

っ!?

――岸本さんがリビングにやってくる。 目は見開き充血している。

山田一郎

な、なんで……入ってきやがったんだ…… 入れねぇんじゃなかったのか!?

波羅夷空却

……この祭壇の近くにいすぎたせいだ。 拙僧らの生のエネルギーが、ヤツの力を 増幅させちまったのかもしれねぇ……。

岸本さん

私もぉ……私も連れてってぇ!!!

山田一郎

さっきから何言ってんだっ、こいつ……

岸本さん

いいわよね? 貴方について行って……?

山田一郎

どこにでもついてきやがれ! 俺はテメェなんかに負けねぇぞ!

波羅夷空却

馬鹿野郎! なに返事してやがんだ!

岸本さん

ありがとぉおおおお!

――岸本さんは一郎に向かっていく。

山田一郎

っ!

波羅夷空却

くっ! おい、この怨霊やろう! 拙僧の方に来やがれ! テメェが満足するまで付き合ってやんぜ!!

岸本さん

じゃあ貴方にするぅあああああああああああああああ!!

――岸本さんは空却に飛びつく。

波羅夷空却

ぐあっああああ……。

山田一郎

空却ぉ!!!

波羅夷空却

拙僧に取り憑いてるうちに早く逃げやがれ……。 な、長くはもたねぇ……。

山田一郎

ダチを見捨てて逃げるなんざ俺にはできねぇ! ぶっ飛ばしてやるぜ!

――岸本さんに蹴りをくらわせる一郎。

岸本さん

キャハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!!

山田一郎

だ、だめだ……こいつに触れられねぇ……!

波羅夷空却

は、早く……逃げろ……

山田一郎

クソが……どうしたら……

山田一郎

物理が効かねぇなら、言葉をぶちかましてやるぜ!

――マイクを起動する。

――……

――苦しそうに消滅する岸本さん。

岸本さん

あああああああああああああああああああああ!!!

山田一郎

はぁはぁはぁ……やった……のか?

波羅夷空却

ま、まじか。 ラップであの怨霊を浄化させちまった……

山田一郎

大丈夫か空却!?

波羅夷空却

あ、ああ……おかげさんでなんとか……な……。

波羅夷空却

つーか、なんとかなったからいいモンをよぉ、 なんで逃げなかった!

山田一郎

言ったろ? お前が危なくなったら助けてやるよ! ってな!

波羅夷空却

……はっ! そーだったな。 まさか本当に助けられるとはなぁ……。

山田一郎

さっさとこんな不気味なとことはおさらばしようぜ。

波羅夷空却

だな……。

山田一郎

腹減ったし、ラーメン食って帰ろうぜ。

波羅夷空却

おう! 礼に拙僧が奢ってやんよ!

山田一郎

お前金ねぇだろ……。

波羅夷空却

今日はお前が払って、出世払いで返してやるよ!

山田一郎

それは奢りじゃねぇだろ……。

波羅夷空却

遅いか早いかの違いで、 拙僧が最終的に出すんなら奢りだろ! 早く行こうぜ!

山田一郎

ったく……。 無茶苦茶な野郎だ。

END