――イケブクロ 西口公園(昼)
――つーか、この間のマンションまじでやばかったな! あの後、敷地内から白骨化した女の遺体が 発見されたってニュースになってたぜ。
ああ……。 ……あれから315号室について 色々調べてみたんだ。
なんかわかったのかよ?
……315号室の住人はあの建物自体を 恨んでたっぽいな。
どーいうことだぁ?
あの土地はある資産家の持ちモンだったみてぇなんだ。
んで、当主が亡くなった後、ふたりの子供に 相続されたんだが……弟の方が兄貴を騙して 土地と建物の所有権を全部奪っちまったらしい……。
胸糞悪りぃ野郎だな……。
ああ……。 で、兄貴にはあの315号室だけがあてがわれた。
なるほどな……。 まさかそいつが自身の命と引き換えに あのマンションを呪ったってわけじゃねぇよな……?
ああ、違う。
弟と絶縁状態になったらしいが、兄貴は死んでねぇ。 今も普通に暮らしてる。
……。
あの部屋で死んだのは弟の方だ。
はぁ……? 一体どういうこった? まさか兄貴にぶっ殺されたのか?
自殺だってよ。
まじか……。ワケがわかんねぇ……。 つまり、315号室からあのマンション全体を 呪ったのは弟ってことか。
ってことになるな。
何があったんだよ……。
弟もどうやら騙されて土地と建物を 取られちまったんだ。 自分の愛人に。
因果応報とはよく言ったモンだな。
じゃあ発見された女の死体ってのが その愛人なのか?
知り合いの刑事に確認したが、 どうやらそうみてぇだ。
はぁ……。 業が深いマンションだったってことだな……。
だな……。 ただ、ひとつだけわからないことがある……。
なんだよ?
あの「岸本さん」って怨霊のことだ。
その愛人が岸本さんじゃねぇのかよ……?
俺も最初はそうだと思ったんだが……違った……。 自分を「岸本」と名乗るあの女は どこから来たのかまったくわからない……。
関係のない怨霊が棲みついていたってことか……。
調べといてなんだが……めちゃくちゃこえぇ……。
おっし! なら飯くいに行こうぜ!
唐突だな……。
食べるって行為は生命力の源だから、 魔除けになるんだよ!
へぇ……そうなんだな。 まぁ腹減ってたし全然いいけどよ。
ならこの前行ったラーメン屋行こうぜ!
おう!
――ラーメン屋の前
いや〜食った食った! ごっそさん! 美味かったぜ!
お前から誘っといて毎回俺に奢らせるってのは どういうことだよ……。
おう、あんがとな! つーか、もういいかげん拙僧に奢るの 慣れてきただろ!
慣れたかねぇが、慣れちまったよ……。
ヒャハハ! また頼むぜ!!
ったくよ……。
おっ!
よぉ、斗櫆(とかい)じゃねぇか!
あ、空却さん……。どうもっす……。
ダチか?
おう! そんな感じだ!
はは……そう言ってもらえるのは嬉しいっすけど、 俺は空却さんの舎弟みたいな感じっすよ。
……つーか、元気なくねぇか? なんかあったんなら拙僧が相談乗ってやるぜ。
いや……なんでもないっす……。
お前、いつも鬱陶しいくらい元気じゃねぇか。 ……なんにもねぇってのは通らねぇよ。
はは……。 空却さんには隠し事できないっすね……。 実は――
闇バイトだぁ???
はい……。
つーか闇バイトってなんだ??
……平たく言えば犯罪行為の手伝いってトコだ。
犯罪だぁ? テメェ! なんでんなことしたんだよ!?
い、いえ……応募しただけでまだやってないっす……。
ンだよ。じゃあやらなきゃいいだけのハナシだろ。
それが……。
脅されてんだろ?
はい……。
……何をやれって指示されたんだ?
強盗(たたき)っす……。
なるほどな……。 ってことは他にも何人か お前みてぇなのが集められるんだろう。
はい……。俺のほかに3人いるみたいっす。
絵図を描いてる野郎どもは絶対に現場に来ねぇだろうな。
……強盗はヤバいと思って断ったんっす……。 けど、やらないと家族を殺すって言われて……。
つーか、応募しただけなんだから、 バックれちまえばいいじゃねぇか!
応募する時に個人情報を提出しなきゃいけなくて…… それで実家の場所とか家族構成とかを……。
馬鹿かテメェ! ンな危ねぇ奴らに家族の情報 渡してんじゃねぇよ!
す、すみません……。 どうしても金が欲しくて……。
まぁこいつが馬鹿野郎ってことは間違いねぇが、 今はこいつを怒っても何も解決しねぇ。
その脅してる野郎どものトコに連れてけや! 拙僧がナシつけてやるぜ!
その……会ったことなくて……
……どーいうことだよ?
連絡は全部SNS上で取ってまして……。
だろうな……。さて……どーすっかな……。
ンじゃあよぉ! 拙僧が斗櫆の代わりに その闇バイトってのに参加してやるよ! そーすりゃお前は解放されんだろ。
え……。
代わりに行ってどーすんだよ?
決まってんだろ。 強盗に参加する奴らをぶっ潰して その指示役って野郎を目の前に引き摺り出してやんだよ!
どーやって引き摺り出すんだ……?
それはあれだ……気合いがありゃ なんとかなんだろ!
どーにもなるワケねぇだろ……。 ったく……俺にいい考えがあるから一緒に行ってやる。
いいのかよ?
この街(ブクロ)で悪さする奴を潰しに行くんだ。 手伝わない理由なんてねぇ!
へへ! サンキューな!
ってことで俺も参加させてもらうわ!
ありがとうございます……!
――イケブクロ とある公園(夜)
ここが指定された場所かぁ。
他の奴らはまだ来てねぇみたいだな。
――すると奥のほうから人がやってくる。
オメェらもササキさんからの指示で来たのか?
ああ……。
お前ら今回が初めてか?
おう。
抵抗されたらちゃんとぶっ殺せよ。
ああ、ぶっ殺してやるぜ……。 オメェらをな! オラァ!
――闇バイトCに蹴りをくらわせる空却。
がっあああ!
テメェ何しやがんだ!
はああああ!!!!
――一闇バイトA、Bに蹴りをくらわせる一郎。
があああああああ!!!
ふん……。
んで? 考えがあるって言ってたがどーすんだ?
……とりあえずこいつらから俺らのことが 漏れたらやべぇ。 終わるまで縛ってその辺の茂みに隠しとくぞ。
おう!
――闇バイト達を茂みに隠し終わる二人。
これでよっし!
この後はどーすんだ?
指示役に連絡すんだよ。
あん? まさか闇バイトに来た野郎共を全員ぶっ潰しましたとか ご丁寧に言うつもりじゃねぇだろうなぁ?
バーカ! 言うわけねぇだろ。 奴らに餌を撒くんだ。
餌だぁ?
ああ。押し入った家の中に金庫があって、 現金が数億あったっていう餌をな。
……なるほど。 そんな大金なら直接取りに来たほうが確実だろうからな。
ああ。
拙僧じゃ思いつかなかったぜ! 流石だな一郎! んじゃ早く連絡しようぜ!
ああ。
――……
――スマホの通知音が鳴る。
きた!
引っかかったか!?
……取りに来るってよ。
二つ返事でくるなんざ用心がたらねぇみたいだなぁ!
……あらかじめ用意してた札束の写真に 上手く騙されたみてぇだ。
用意周到だな! おっし! 奴らがきたらとっちめてやるぜ!
――……
――ササキが車から降りてくる。
……お前らが山田一郎と波羅夷空却か?
おう……。
ああ……。アンタがササキさん?
ああ。……で、金はどこにある?
金か……金なら……
ンなもんねぇよぉ!
――空却はササキを殴り飛ばす。
うぼぉあああ!
もうちょっと骨があるヤローかと思ったら 一発で終わりかよ。拍子抜けだぜ。
テメェら…… 俺にこんなことして上が黙ってねぇぞ……
それが俺らの狙いだ。 誰がテメェらのアタマなのか ちゃっちゃっと吐いてもらうぜ!
誰が言うかよ……
ンじゃあ吐きたくなるまでぶん殴って……
止めとけ。 無駄な暴力を振るう必要はねぇ。
じゃあどーすんだよ?
簡単に吐かせる方法がある。
あん?
ササキさんよぉ、取引しようぜ。
取引だぁ?
テメェのことはサツには黙っといてやる。 その代わりにアタマの名前と居所を吐け。
……。
テメェらみたいな悪党は自分が一番だろ? テメェを犠牲にしてまで守る価値があるボスなのかよ?
……本当に見逃してくれるのか?
ああ、警察には突き出さない。
……わかった。アタマは――
――……
……帳兄弟が噛んでるハナシだったか。
チッ、あのカス共は相変わらずだな……。
つーか、見逃すって約束してたのに、 あの野郎をラップでボコボコにするなんざ鬼だな。
何言ってやがんだ? 俺は警察に突き出さねぇって言っただけで 見逃すなんて一言も言ってねぇよ。
ヒャハハ! いいねぇ! 悪党はぶっ飛ばさねぇと気がすまねぇからなぁ。 んじゃ、あのボケ兄弟を今からとっちめに行くか!
この時間じゃアジトにはいねぇだろ。
奴らのことだ! どうせ夜の街をフラフラしてんだろ。 拙僧の仲間に頼めば居場所なんざすぐにわかるぜ!
――クラブ前
情報通りならここのクラブの控室にいやがるな。
……お前のダチの情報網すげぇな。
ゴロツキ共が多いからなぁ! 奴らを探すには、ゴロツキを使うのが道理ってもんよ。 早速ぶちかましにいくぞ!
ああ!
――クラブ 控室
――扉を蹴破る空却。
はあぁ!!
っ!
ンだテメェら!!
よぉ、ボケカス兄弟! 年貢の納め時ってやつだ!
急に現れて、年貢を納めろってのは いささか乱暴ではありませんか?
……ネタは上がってんだ。 テメェらが闇バイトの元締めだろ?
……はて? なんのことだか、わかりませんねぇ……。
部下が全部吐いたんだよ!
言いがかりはやめていただきたい。 なんの証拠もないですよね?
確かに……。 証拠はねぇが、俺らは警察じゃねぇ! ンなもん、必要ねぇってのはわかるよなぁ!?
――マイクを取り出す一郎と空却。
拙僧のラップで閻魔サンのトコにいかせてやるぜ!
やれやれ…… 相変わらず荒っぽい人たちですねぇ……兄者……。
俺らのパワーアップしたラップでぶちのめしてやるぜ!
ふふ……閻魔様のところに行くのはあなた方です!
――マイクを取り出す帳兄弟。
兄者! やるよ!
おお!!
空却! くるぞ!
へっ! 誰にモノ言ってンだ! 余裕で跳ね返してやんぜ!
――……
あんぎゃあああああああああああああ!!!
パワーアップしたとは思えなかったぜ。
ヒャハハ! 雑魚すぎてハナシになんねぇ!
こいつらを警察に突き出せば、一件落着だな。 ……あの斗櫆って野郎にはもう馬鹿なこと すんじゃねぇって言っとけよ!
おう! 拙僧の名に誓って馬鹿な真似はさせねぇよ!
戦の後はやっぱ腹が減んなぁ! 一郎ぉ! ラーメン食いに行くぞ!
またラーメンかよ……。 どうせ俺が出すんだから、俺に食うもん選ばせろよ……。
ヒャハハ! 激辛ラーメンで美味そうなトコ見つけたんだよ。 早く行くぞ!
ったく……。少しは俺のハナシを聞けっての……。