――乱数の事務所(昼)
――インターホンが鳴る。
はいは〜い!
あ、じゃっくらいじゃん!
急にすみません。
どったの???
この間はお礼に何かご馳走すると言っておいて、 できていませんでしたので、改めてお誘いに参りました。
この間って……ああ! あの歌舞伎町の件ね! 確かにあの後、行きたかったお店が満席だったから コンビニのカップ麺になっちゃったもんね!
あれだけでは私の気がすみません。 なので私の手料理を振る舞わせてください。
え、いいの? 寂雷の料理美味しそう!
満足して頂けるように頑張ります。
あ、そうだ!
どうしましたか?
どうせだったらボクも何か作りたいから、 お互い自信のあるものを作って一緒に食べようよ!
料理、できるのですか?
あ〜! 寂雷、ボクのことみくびりすぎだよ〜!
こー見えても、ひとりの独身のオトコノコだし~? 料理のひとつやふたつチョチョイのチョ〜イって できちゃうんだから☆
それは失礼しました。 では私の家の調理場を提供しますね。
おけおけ〜! じゃあせっかくだからいい食材を買いに シンジュクの百貨店に行こっか!
いい提案ですね。
よ〜しっ! 早速買いにゴーゴー☆
はい!
――シンジュク 大通り
さぁ〜て、なに作ろっかな〜!
飴村くんの得意料理はなんですか?
そうだな〜……結構なんでも作れるけど、 得意なのはグラタンとかかな!
ではグラタンを作るのですか?
それでもいいんだけど、せっかくならもっと手の込んだ 料理がいいかなって思ってるんだよね〜。 寂雷は何作る感じ???
私は和食にしようかと思っているのですが、 詳しくはどんな食材があるかを見てから 決めようと思います。
じゃあボクも食材見てきーめよっと!!
――不意に老人が目に留まる。
……。
うん?
どったの寂雷?
あそこに困っている様子のお年寄りが…… ちょっと行ってきます。
ボクも行くよ!
お困りごとですか? なにかお手伝いできることがあれば……
……ご親切にありがとうございます。 実は孫の家に行こうとしているのですが、 道に迷ってしまって……。
それはタイヘンだ〜! 住所とかわかる??
えぇ。こちらにメモしてきました。
なるほど、なるほど〜! ……ここからだとちょっと歩くね〜。
よろしければご案内します。
え……ご迷惑じゃ……。
いいえ、ちょうどこちらの住所の方面に 行こうとしていたので迷惑なんてことはありません。 いいですよね、飴村くん?
もちのろんろんろんろ〜ん☆
では、お言葉に甘えさせていただきます。
はい。ではいきましょう。
レッツお孫ちゃんの家〜☆
――……
すっごく感謝されたね〜!!
感謝されるためにやったことではありませんが、 嬉しいものですね。
さっ! 気を取り直して百貨店に向かお〜!
はい!
そういえば寂雷のウチにはどんな調味料があるの?
そうですね……。醤油、みりん、砂糖、塩、 胡椒、酒、味噌、お酢、サラダ油などの 基本的なものはすべて用意してあります。
オリーブオイルはないの???
ありませんね。普段はほとんど和食なので。
じゃあオリーブオイルはマストで買わないとね〜! ってコトは食器も和食に合いそうな物しかない感じ??
そうですね。和の食器ばかりです。
ふむふむ。 なら洋食に合いそうな食器も買わないとね〜! 使い終わったら寂雷にプレゼントしちゃう!
いえ、食器は私が購入します。
いいって、いいって! 調理場貸してくれるんだし、 それくらいボクに出させてよ☆
元々は私が感謝を伝えるための食事会です。 作ってもらううえに、食器まで揃えて いただくわけにはいきません。
ボクが良いって言ってるんだから大丈夫だって〜!
こういうことはきっちりしなければなりません!
だから大丈夫だって!
ダメです!
大丈夫!
ダメです!
――不意に子どもの泣き声が聞こえてくる。
うわ〜ん!!
っ!?
ええ〜ん!
どうしたのかな??
ご両親はどちらですか?
ううう……さっきまで一緒にいたのに…… どこにいるかわかんない……。
迷子のようですね……。
よっし! オニーさんとこのおじさんが 君のパパとママを捜してあげるね!
飴村くん、確かに彼からすれば私はおじさんですが、 自分のことをお兄さんと言うのであれば 私も同じでも……。
ありがと! おにーさんとおじさん!
ほら、この子も言ってるじゃん!
仕方ないですね……。
さ! すぐに見つけてあげるからね!
――……
本当にありがとうございました!
じゃあね〜! おにーさんとおじさん!
バイバ〜イ!
もう迷子になってはダメですよ。
すぐに見つかってよかったね〜!
ええ。……それにしても飴村くんは子どもの扱いが 得意なんですね。やはり同じく子どもの気持ちが わかるからでしょう。
……それってボクが子どもだって言いたいのかな??
ふふ。さぁどうでしょうかね。
さっきのこと、根に持ってるなんて 寂雷ってばうっざ〜い!
そういう所が子どもっぽいんですよ?
――不意に叫び声が響く。
ひったくりだ!!!
っ!?
はぁはぁ! どけぇ!!
誰かそいつを捕まえてくれ!!
飴村くん!!
うん!! 追いかけよう!!
――……
ぐうう……。
ご協力、感謝いたします!
うむ! くるしゅうないぞ!
ありがとうございました! お陰様で荷物が返ってきました!
当然のことをしたまでです。
さぁ、来い!
くっ……。
今日は色々なことに巻き込まれるね~!
ですね。 もう夕方ですし、急ぎましょうか。
うん、そうだね!!
――シンジュク 百貨店前(夕)
と〜ちゃっく! せっかく来たし、ゆっくりお茶でもしたいけどね〜!
そうしたいのは山々ですが、 早く買い物を済ませましょう。
だよね〜!
――不意に大勢の足音が響く。
もう逃げられないぞ! 大人しくしろ!!
うるせぇ! ぜってー捕まるかよ! っ!! おら! 動くんじゃねぇ! 殺すぞ!
うひぃあ〜! お、お助け〜!
っ!?
あっちです! いきましょう!
うん!
――声の方に移動する。
なんてことだ……包丁を持った暴漢……。
サラリーマンの人が人質になってる……!
ちょ、貯金が59万円あるので それで勘弁してください〜!!
うるせぇ! 黙ってろ!
アヒャアアア……!! だ、大事な会食があるのに…… このままじゃ大遅刻だぁ……。
その人を解放しなさい!!
馬鹿か! 解放するわけねぇだろ!
あああああ! 会食に行かないとクビになってしまう!!!
なんかあの人、自分の命よりも仕事の 心配してるんだけど。 社会人の鑑ってやつかな?
冗談を言っていないで助けにいきましょう!
は〜い!
――銀行強盗の前に出る。
っ! 危険だから下がりなさい!!
ンだテメェら!!
その人を離しなさい!
人質を取るなんて卑怯者のすることだぞ!
卑怯でもなんでもここから逃げられりゃあ なんでもいいんだよ! さっさと離れねぇとこいつの腹ぁ刺すぞ!!
おおおお、お助け〜!!! そんなところ刺されたら会食に行けなくなってしまう!!
くっ……どうしたら……。
っ! そーだ!
ラップでぶっ飛ばしちゃおう!
……そうですね。やりましょう飴村くん!!
さぁボクらの無敵ラップをかましちゃうよん☆
覚悟してください!!
――……
あ〜あ。 強盗と一緒にあのサラリーマンの人も 吹っ飛んじゃった……。
ぎゃあああああああああああああああああ!!!
うわあああああああああああああああああ!!!
確保だ!!!
なんとかなったね!
……あの彼は大丈夫でしょうか?
あああ! 完全に遅刻だああああああ!!!
――走ってどこかへ行ってしまう独歩。
き、君ぃ! 事情聴取がこれから……!
クビになっちゃうんで後日にしてくださ〜い!!
大丈夫そうみたいだね?
そ、そのようですね……。
ご協力感謝いたします。 この後調書を取りたいので署の方へ 来ていただいても?
勿論です。
まっ、仕方ないか!
――シンジュク 警察署前(夕)
う〜〜〜ん! 結構時間取られちゃったね……。
ええ……。 もう百貨店は閉店してしまっていますね。
まっ、人助けだし仕方ないよね〜。
残念ですが、料理はまた今度の機会に。
また日を改めよ!
そうですね。 では今日はどこかのレストランへ……。
この辺のお店もうやってなさそうだから、 またコンビニでカップラーメン買って公園で食べない?
カップラーメン……ですか? あまり好ましくは……。
この間ボクと一緒に食べて美味しかったでしょ?? ねっ、一緒に食べよ!
……確かに。 では、いきましょうか。
ボクが奢ってあげる☆
いえ、割り勘にしましょう。 こういうことはしっかりしなければ。
もう! 本当に寂雷はお堅いんだから!