――オオサカ 居酒屋
どしたん、盧笙。 酒、進んでへんやん。
うちの学校の生徒でも、 まだ【MIRA】から戻ってへん奴がおってな。 飲む気分になれんわ。
未帰還者の救助は実習生頼み。 自分たちでできることが少のうて やきもきする気持ちはわかるで。
そんな時こそ、元気が一番! しょぼくれた顔は厳禁やで!
しょーもないダジャレやな。 ……けど、少し気が紛れたわ。
せや。 こっちがしょぼくれた顔しとったら、 残された人たちの悲しみも増してまう。
待ってる間に心が折れへんように、 元気に日常を過ごすことが大切や。 よう笑って、よう休めっちゅーことやな。
簓の言うとおりやな。 俺らが焦って疲弊しとってもなんの意味もあらへん。 やれる時に、しかるべきことをやるしかないな。
よぉ、邪魔するぜ。
おっ、零やんけ。 一緒にどうや?
いい酒飲んでるじゃねぇか。 そんじゃあ、お言葉に甘えるとするかね。
おっさんは平常運転って感じでええな。 動揺しとるところのひとつでも見てみたいわ。
おいちゃんの驚いた顔は、ちょいとレアだぜ。 ……ところで、その感じだと 【MIRA】の話でもしてたのか?
なんや、聞き耳でも立てとったんか? エスパーみたいやな!
零はさすがの洞察力やな。 で、そっちはなんか掴んでへんのか?
おいちゃんの方は、ぼちぼちってところだな。
なんや。 含みがある言い方やな。 みんなを救出するヒントでも見つかったんか?
生憎と、そこにはまだ至ってなくてな。 手がかりになりそうなものを探してるところだ。
ふむふむ。 みんな、自分なりにできることをしとるんやな。 明日は俺も気合い入れていくで。
ほう。 明日はなんだ? 収録か?
ライブ配信番組に出演するんやて。 せやから、飲みすぎはあかんで。
だいじょーぶだいじょーぶ。 俺の身体は超ジョーブ、や!
ははっ、簓もプロなんだ。 飲みすぎることはねぇだろ。
まぁ……、確かにそうやな。 せっかくやし、付き合うとするか。 俺ももう一杯頼むで。
――翌日
――実習生の部屋
今日も【MIRA】の分析やモニタリングで 一日が終わってしまった。 だが、あと少しで核心に迫れる気がする。
終業時間は過ぎたし、息抜きしよう。 簓さんが出演する番組が始まるはずだ。 疲れた心身をお笑いで癒したい……。
――配信を視聴する。
皆さん、お待たせしました! 今日のスペシャルゲストは、白膠木簓さんです!
まいど~!
――画面にノイズが走る。
まいど~!
えっ!?
まいどおおきに、簓さんやで~! 【MIRA】から重要なお知らせがあるから みんな、聞いたってや~。
これは……ハッキング……? それに向こうの画面にも白膠木さんが……。 どういうことだ……?
こいつは【ゴースト】や。 俺になりすましてるAIやで……! よりによって、このタイミングで……。
駄目だ……! 画面を切り替えれない!
【ゴースト】、一体なにをする気や……!
【MIRA】の日頃のご愛顧、おおきに! おかげさまで、 感謝を込めた大規模リニューアル決定や!
その先駆けに、おもろいイベントを開催予定や! ワクワクドキドキのアスレチック満載! おもんない現実を吹っ飛ばすで!
ゴールにいる簓さんに辿り着いたら 願いを叶えるっちゅー太っ腹っぷり! 参加せな損やで~!
因みに、【MIRA】は安全安心な場所や。 その証拠に、俺が先に行って待っとるで!
――画面にノイズが走る。
な、なんちゅーことを……。 姿は同じに見えるし、偽物やゆーても 信じてもらえへんかもしれん……。
それに、この番組を作っとるんは あんま大きないところや……。 こないな放送事故、番組の存続にかかわるかもしれん。
が……画面、戻ります!
……っちゅー夢を見たんですわ。 【MIRA】がほんまに安全になったら、 そんなイベントも企画してみたいもんやな。
な、なるほど! それでは先ほどの話はすべて夢の中の話だと! 視聴者参加型のイベントは楽しそうですね!
ってなわけで、 今の【MIRA】には入ったらあかんで! 絶対に入らんといてや!
皆さん、くれぐれも入らないように! 以上、白膠木簓さんでした!
カットー! お疲れさまでした! 一時はどうなることかと……!
――簓、スマホを取り出す。
まさか、【ゴースト】が番組を乗っ取るやなんて……。 ネットの反応は……って、あかん! 「入るな」が「フリ」やと思っとる視聴者がおる!
――着信音
盧笙からや……!
――通話
お前、なんちゅーことしとんのや! 思わせぶりなこと言いよって! あれやったら、「フリ」やと思うやろ!
ちゃう、ちゃう! 【ゴースト】に番組を乗っ取られたんや。
はっ! そ、そうやったんか……。
今、番組側で対応を考えとるところや。 ログイン防止策は任せるとして、 俺らがやるべきことは……。
フリやと思ってログインした連中を助けることやな。 そんなら、実習生に連絡しとくわ。
すまん。 ログインするタイミングを合わせなあかんやろうし、 俺の連絡先も伝えといてくれへんか。
わかった、任せとき。 じゃあな。
――通話終了
とにかく、ログインする準備せなあかんな。 【ゴースト】が言うたことが、ほんまやったら でっかいアスレチックがあるはずや。
まずはそこを目指す。みんなの笑顔を 取り戻すためやったら、アスレチックやろうが 熱湯風呂やろうが、なんでもやったるわ!
――実習生の部屋
すぐに盧笙さんから連絡がきた。 おふたりの力があれば【ゴースト】に対抗できるはず。 あとは……。
――着信音
零さんだ……!
――通話
よぉ、面白そうなことになってるじゃねぇか。 俺も混ぜてくれねーか?
もちろんです!
歓迎してもらえて嬉しいぜ。 お前に、確認したいこともあってな。
確認したいこと?
今は急いだほうがいいだろうから、現地で話す。 それよりも、【ゴースト】がおっぱじめたみたいだぜ。
零さんに促されてネット動画を見る。 簓さんの【ゴースト】がライブ配信を開始していた。 番組名は――「通天閣への道」。
願いごとを叶えるのが賞品らしいからな。 VRオオサカに囚われていた連中も集まるかもしれねぇ。
みんなを帰すチャンスですね
その意気だ。 それじゃあ、VRオオサカに行ってるぜ。
――通話終了
自分は、自分のできることをやるしかない。 帰りたいのに帰れない人たちや、 待っている人たちの笑顔を取り戻すために。
――【MIRA】へログインする。
――VRオオサカ 路地裏
お、来よったな。
実習生~! こんにチワワ!
ふふ、簓さんは面白いですね
そんな、笑っとる場合か……。
いやいや。 大仕事の前こそ、リラックスが必要や。 肩の力を抜いた方がええで~。
遅れちまったぜ。 待たせてすまねぇな。
零も来てくれたんか。 これは心強いわ~。
それで、アスレチックは……
あれや!
な、なんやこれ! 現実のオオサカに無いモンが建っとる!
ほー、 ずいぶんとやりがいがありそうだな。
ボルダリングや、転がるドラム缶の上に乗ったり、 様々なアスレチックをこなした後に 巨大迷路を経由して通天閣を目指すようだ。
ボルダリングの下、サメが泳いどる……。 落ちてもうたらサメに食われるんか……?
すでに何人も集まってんな。 やる気があっていいことだが……。
ケガをしたらタダでは すまないのでは……
ケガ……!
そうだな。 VRとはいえ、精神を繋げてるんだ。 身体が傷つくことはねぇが、精神はどうだかな。
そない危険なことをさせとるんか……! なにが安全安心や! 早よ止めんと……!
この「通天閣への道」は ログイン禁止の【MIRA】で行われる、 一般人の決死の挑戦というコンセプトらしいが……。
あかん!
うおっ、びっくりした! いきなり叫ぶなや!
こんな危険な番組、お笑いとちゃうわ! 人にケガさせてええわけあるかい!
盧笙、俺らもアスレチック攻略するで! 【ゴースト】に、こんな番組をやめさせるんや!
――簓、走っていく。
お、おう! ……って、アスレチックはちゃんとやるんかい!
――VRアスレチック ボルダリング
【ゴースト】の領域じゃ、小細工は通じない だろうしな。俺は、アスレチックから 脱落した連中を、助けに行くとすっかね。
ログアウトなら任せてください!
助かるぜ。 おいちゃんひとりじゃログアウトさせられねぇしな。
そんなら、ふたりが攻略しやすいように先行しとくわ!
おい! いきなり止まるな!
――盧笙と簓、ぶつかる。
あかーん! 池ポチャしてまう!
簓ァー! 踏ん張れやーーーっ!
ふー、危なかった~。 持つべきものは体幹やな! サメに襲われそうになって目がサメたわ。
ヒヤヒヤさせよって……。 ダジャレまでかますなんて余裕やないか……。
アスレチックの攻略はあいつらに任せておけばいいな。 俺たちは俺たちで、やるべきことをやるか。
はい!
自分は零さんとともに脱落者の救助に向かった。 池に落ちてサメに襲われそうになった人に手を貸し、 なんとか水の中から出した。
はぁはぁ……助かった。 ずっとログアウトできなくて……。 だから、ログアウトするという願いを叶えたくて……。
やっぱりな。 VRオオサカに残ってた連中も集まってるか。 ログアウトさせるには好都合だが……。
これも【ゴースト】の狙い……?
簓の【ゴースト】だからな。 考えなしってわけでもなさそうだ。 それに、大規模リニューアルってのが気になる……。
アスレチックのことを指しているわけではないの だろうか。【ゴースト】の思惑が気になりつつも、 助けた人たちをログアウトさせていった。
ふたりともー! ボルダリング、クリアしたでー!
そっちがひと段落したら来たってやー!
おう。 こっちは全員ログアウトさせた。 今すぐ行くぜ。
脱落した人たち全員をログアウトさせることができた。 挑戦中の人たちは、道すがらログアウトさせよう。 自分と零さんは、簓さんたちのほうへ向かうことにした。
ときに、実習生。 お前に確認したいことがあるんだが。
はい?
お前の恩師、神来社識っていう奴で間違いないな?
は、はい……!
なるほどな。 いや、少し調べたいことがあってな。 調査が進んだら改めて話す。
零さんはそう言って先に進む。 神来社さんの名前は調べればすぐに出てくるものの 零さんはどうしてこのタイミングで……。
どうして零さんが神来社さんのことを……。 だが、 今はログインしている人を助けることが最優先だ。
さて、俺たちもサメがいるボルダリングを 攻略しないといけねぇわけだが……。
簓さんと盧笙さんは、すでに向こう岸にいる。 自分たちも、 なんとか対岸に渡らなければならないが……。
ふたりが攻略しやすいようにと思って ロープを探したんやけど、 なんぼ探しても見つからんくてな……。
こりゃあ難儀そうだな。 おいちゃんと一緒に行くか?
ふたりで行くのは危険です……!
せやな……。 ふたり一緒やと逆に危険や。 ひとりひとり、慎重に攻略した方がええ。
それもそうだな。 んじゃ、先に行くぜ。 ゆっくり来な。
零さんは楽々とボルダリングを攻略した。 次は自分の番だ……!
ふんばれーっ! 右上のホールドを掴むんや! 足は隣にずらせばええ!
はい……!
よかった! 無事に着いたな! えらいで!
簓さんがアドバイスをくれたお陰で、 なんとか攻略できた。 次はドラム缶を転がして対岸を目指すようだが……。
――VRアスレチック ドラム転がし
こいつは足場が安定せん。 さっきみたいにはいかんな……。
体幹には自信があります!
ほう。 いいツラしてるじゃねぇか。 ここは任せてみるとするかね。
無理せんでもええんやで。 別の方法があるかもしれんし……。
このアスレチックは、さっきよりも難易度が高い。 ……それでも、ひとりでやるんやな。
はい……!
ほんなら、簓さんが後ろで見守っとるわ。 盧笙、零、先に行ったってくれ。
あ、ああ……。
それじゃあ、おいちゃんは先に行くぜ。
のわーっ! 腹筋に力を入れんと、足が持ってかれるわ!
ははっ。 なかなか愉快なアスレチックじゃねーか。
零さんは余裕で渡りきった。 さすがの一言だ。
自分も……行きます!
腰を落として重心を下にして、 右足が持っていかれる前に、左足を出すんやで!
はい!
いけーーー! あと少しやーーー!
よしよし。 よくできたじゃねぇか。
実習生の芸人魂、 しかと見届けたで! 俺も負けてられへんな!
実習生は芸人とちゃうやろ!
ははっ、 お前ら息ぴったりだな。 配信見てる奴らも笑ってそうだぜ。
簓さんも無事にドラム缶を攻略した。 そのあとも数々のアスレチックを攻略し、 待ち構えていた電脳ラッパーを倒していった……。
――VRアスレチック 巨大迷路
こいつが最後のアスレチックやな……! この巨大迷路の先に通天閣があって、 俺の【ゴースト】がいるはずや……!
迷路なら、左手で壁を伝って行けばええ。 時間がかかるかもしれんが、確実に攻略できるはずや。 なあ、おっさん。
ん? あ、ああ、そうだな。
なんやおっさん、ぼんやりして心配やな。 俺がしんがりを務めるか。
そんなら、俺が先頭やな。 実習生、行くで。
はい!
――……
――盧笙、零にぶつかる。
おい、零! なんで止まるんや!
いや、先に行けねぇんだ。 半透明の壁ができちまった。
あっちゃー。 そんな仕掛けがあったなんてな。 二手にわかれてゴールを目指すしかないか。
しゃーない。 またゴールで! 左手で壁を伝って行くのを忘れたらあかんで!
神来社さんのことを聞くタイミングがなかった。 落ち着いてから話してくれるだろうけど、 どうしても、気になってしまう……。
実習生、実習生。
はい……?
見えへん壁で惑わすなんて、 この迷路、明朗さが足りひんわ……!
ふふふっ……
よし、ええ顔になったな。 苦しい時こそ笑いが大切や。 笑う門には福来るって言うしな。
気になることや、悩んでることがあるんやったら あとで簓さんがいっくらでも聞いたるわ。 どーんと大船に乗ったつもりで頼ってや!
簓さんの気づかいが温かい。ドラム缶の時も、 フォローしようと待っていてくれたんだろう。 だからこそ、甘えてばかりはいられない。
ありがとうございます
礼なんかいらへん。 苦しい時はお互いさまや。
はい!
――……
途中で未帰還者を助けつつ、半透明の壁に阻まれながらも 左手で壁を伝いながら歩いていくと ようやく通天閣が見えてきた。
ようやくゴールに着きそうやな。 お疲れさん。 盧笙と零も、じきに着くやろ。
盧笙さんと零さんの声も聞こえてきた。 通天閣はすぐそこだ。 【ゴースト】と決着をつけなくては。
――VRオオサカ 通天閣
よぉ来たな。 攻略できるとは思わんかったわ。 おもんない現実とは違って、刺激的でおもろかったやろ!
確かに刺激的やったし、 オモロイを追究するんはええ。 けど、半強制的に一般人を巻き込むんは感心せんわ。
参加者のほとんどが、現実に帰るっていう願いを 叶えてもらうために参加してたしな。 楽しんでる奴はいなかったように思えるぜ。
しかも、危ない仕掛けまで設置しよって……! ケガして大ごとになったらどないするんや!
刺激があるからおもろいんや。 台本不要、ハプニングこそ極上のスパイス!
素人が必死になる、その姿こそ視聴者に刺さるんや。 安全なんてない、ギリギリアウトこそ正義!
あかーーーーーん!!!
事故やケガ人はお笑いのご法度! 安全面に配慮するんが番組側の義務や! せやないと、番組がお蔵になってまうで!
……ちっ、 おもんない奴。
どうせ、白膠木簓はふたりもいらんしな。 刺激的なお笑いがええか、ぬるいお笑いがええか、 ここで決着つけるで。
YO! ゴールでは俺たちとバトルだぜ!
どこからともなく現れた電脳ラッパーが自分たちを囲む。 戦うしかないようだ……!
こないなとこで負けたら、 「ぬるいで、簓!」ってな。
一般人を危険に晒す奴は、どついたらなあかん。 簓、手伝うで!
簓を持っていかれても困るんでね。 俺もやらせてもらうぜ。
実習生! 頼んだで!
ツッコミをくれてやりましょう!
――マイクの封印を解除する。
ほな、行くでー!
――……
ぬわーーー!
アホな……! おもんないのは……俺のほう……なんか?
ラップバトルに負けたからゆーて、 おもんないのとちゃう。
それに、今回は俺のほうがウケただけや。 お笑いは、一度ウケへんかったからって終わりやない。 なんぼでも挑戦できる。誰かを傷つけん限りはな。
……なにが言いたいんや?
番組も同じっちゅーことや。 お前の考えた企画、振り返ってみ。
俺はおもろさを……強い刺激を追い求めて アスレチックを考えついた。 でも、誰かを傷つけたらそこで終わり……か?
大勢に長く見てもらえて、 ぎょーさん笑ってもらえる番組は、安全あってこそや。 そんで、身体を張って刺激を作るんが俺らの仕事やで。
ちなみに! お笑いのためやったら、簓さんが ふたりやろうが3人やろうが、なんぼおってもええ。 おもろいコントができそうや!
お前みたいに騒がしい奴、 なんぼもおったらたまらんわ。
ほんなら、 静かにしとったら100人おってもええんか?
そんなんテレビに映しきれるか! もうええわ!!
ははっ。 簓が100人いたら、盧笙もツッコミきれねぇな。
……ははっ。 これは敵わんわ……。 けど、次はきっと……。
ああ。 お前からの挑戦状、いつでも受けつけるで!
そんときは……全力でどついたるわ……。
簓さんの【ゴースト】は満足そうに笑って消えた。 面白さを追い求める気持ちは、 簓さんと同じだったのだろう……。
――突然、地面が揺れる。
な、なんや!?
【MIRA】のアップデートを開始します。 ユーザーの皆さまは、アップデートに備えてください。
アップデートやと!? 【ゴースト】は倒したのに、どういうことや!
これが、大規模リニューアルってヤツか。 簓の【ゴースト】とは別に動いてたみたいだな。
なんや、あかん気ぃする……! 早う残りの未帰還者をログアウトさせて、 俺らも脱出するんや!
アスレチックが消え、世界が揺れ動く中、 自分たちは未帰還者を保護し 急いでログアウトした……。
かなり慌ただしくログアウトしてしまった。 現実に戻った後、 皆さんの無事を確認するためにオオサカまで向かった。
――オオサカ 通天閣
実習生、わざわざ来てくれておおきにな! それにしても、えらい目に遭うたわ~。 みんな、無事みたいやな。
なんとかな。 急いでログアウトさせた連中も無事ならええんやけど。
そうだな。 実習生、確認できるか?
ちゃんとログアウトできているみたいです
そんなら、ひとまずは安心やな。
事故もなく終わったんやったら、なによりや。 でも、まだ問題がありそうやな? 難しい顔をしとるやんか。
【MIRA】の様子が探れなくて……
ログイン情報は見れるが、 それ以上の内部情報はまったくわからない。 セキュリティが大きく変わっている。
やっぱり、こっちからは見られないようになってるか。 直前まで探っていたが、これ以上は無理みたいだな。
零、たまにぼんやりしとんなー思うたら、 そんなことしとったんか!
おいちゃんは詮索好きなもんでね。 面白そうなことは、ついつい調べちまうのさ。
そうそう。 実習生には、 教えておいた方がいいことも見つかってな。
なんですか……?
どうやら、統治AI「QUEENS」には、 【MIRA】の創造主である神来社識のAIが 組み込まれているようだ。
え……!?
死んだはずの人間のアカウントが、動いていたのが 気になって、神来社に絞って調べてみたんだ。 そしたら、ちょいとした情報が見つかってな。
自分のAIを組み込めば、本人がいなくなったとしても おおよその意思を引き継ぐことができる。 理に適った話やけど……。
実習生には、笑える状況や なさそうやな?
そうですね……
そういうときもあるモンや。 笑顔を取り戻したくなったら、 簓さんはいつでも手貸すで。
今は真実を受け止めるので精いっぱいだ。 こういう時にそっとしてくれる簓さんは、 やっぱり一流のエンターテイナーだと思う。
【MIRA】に関しては、引き続き探ってみる。 そっちもなにかあったら……ん? 【MIRA】のロックが解除されたな。
見てみます!
たしかに、 【MIRA】にアクセスできるようになっていた。 だが、全ての仕様が変更されている……。
大規模リニューアルをするために、一時的に 大勢の精神エネルギーが必要やったんかもしれんな。 【ゴースト】が派手に人を集めたんはそのためか。
いったい、【MIRA】はなにを目指しとるんや。 ええ加減にしてほしいわ。
なにを目指しているのか。 それは、裏で動かしてる奴にしかわからねぇ。 なあ、実習生。
神来社さんの意思がAIとなって生きている。 そして、【MIRA】の大規模アップデート。 自分はこの先、どうすればいいのだろうか……。