ヒプノシスマイク-Dream Rap Battle-

Chapter 12 笑う門には罠が待つ

TRACK 1 招かれざるゲスト

――オオサカ 居酒屋

白膠木簓

どしたん、盧笙。 酒、進んでへんやん。

躑躅森盧笙

うちの学校の生徒でも、 まだ【MIRA】から戻ってへん奴がおってな。 飲む気分になれんわ。

白膠木簓

未帰還者の救助は実習生頼み。 自分たちでできることが少のうて やきもきする気持ちはわかるで。

白膠木簓

そんな時こそ、元気が一番! しょぼくれた顔は厳禁やで!

躑躅森盧笙

しょーもないダジャレやな。 ……けど、少し気が紛れたわ。

白膠木簓

せや。 こっちがしょぼくれた顔しとったら、 残された人たちの悲しみも増してまう。

白膠木簓

待ってる間に心が折れへんように、 元気に日常を過ごすことが大切や。 よう笑って、よう休めっちゅーことやな。

躑躅森盧笙

簓の言うとおりやな。 俺らが焦って疲弊しとってもなんの意味もあらへん。 やれる時に、しかるべきことをやるしかないな。

天谷奴零

よぉ、邪魔するぜ。

白膠木簓

おっ、零やんけ。 一緒にどうや?

天谷奴零

いい酒飲んでるじゃねぇか。 そんじゃあ、お言葉に甘えるとするかね。

躑躅森盧笙

おっさんは平常運転って感じでええな。 動揺しとるところのひとつでも見てみたいわ。

天谷奴零

おいちゃんの驚いた顔は、ちょいとレアだぜ。 ……ところで、その感じだと 【MIRA】の話でもしてたのか?

躑躅森盧笙

なんや、聞き耳でも立てとったんか? エスパーみたいやな!

白膠木簓

零はさすがの洞察力やな。 で、そっちはなんか掴んでへんのか?

天谷奴零

おいちゃんの方は、ぼちぼちってところだな。

躑躅森盧笙

なんや。 含みがある言い方やな。 みんなを救出するヒントでも見つかったんか?

天谷奴零

生憎と、そこにはまだ至ってなくてな。 手がかりになりそうなものを探してるところだ。

白膠木簓

ふむふむ。 みんな、自分なりにできることをしとるんやな。 明日は俺も気合い入れていくで。

天谷奴零

ほう。 明日はなんだ? 収録か?

躑躅森盧笙

ライブ配信番組に出演するんやて。 せやから、飲みすぎはあかんで。

白膠木簓

だいじょーぶだいじょーぶ。 俺の身体は超ジョーブ、や!

天谷奴零

ははっ、簓もプロなんだ。 飲みすぎることはねぇだろ。

躑躅森盧笙

まぁ……、確かにそうやな。 せっかくやし、付き合うとするか。 俺ももう一杯頼むで。

――翌日

――実習生の部屋

実習生

今日も【MIRA】の分析やモニタリングで 一日が終わってしまった。 だが、あと少しで核心に迫れる気がする。

実習生

終業時間は過ぎたし、息抜きしよう。 簓さんが出演する番組が始まるはずだ。 疲れた心身をお笑いで癒したい……。

――配信を視聴する。

司会

皆さん、お待たせしました! 今日のスペシャルゲストは、白膠木簓さんです!

白膠木簓

まいど~!

――画面にノイズが走る。

白膠木簓ゴースト

まいど~!

実習生

えっ!?

白膠木簓ゴースト

まいどおおきに、簓さんやで~! 【MIRA】から重要なお知らせがあるから みんな、聞いたってや~。

TRACK 2 ログインフリーはフリやない

司会

これは……ハッキング……? それに向こうの画面にも白膠木さんが……。 どういうことだ……?

白膠木簓

こいつは【ゴースト】や。 俺になりすましてるAIやで……! よりによって、このタイミングで……。

スタッフ

駄目だ……! 画面を切り替えれない!

白膠木簓

【ゴースト】、一体なにをする気や……!

Chapter 12
白膠木簓ゴースト

【MIRA】の日頃のご愛顧、おおきに! おかげさまで、 感謝を込めた大規模リニューアル決定や!

白膠木簓ゴースト

その先駆けに、おもろいイベントを開催予定や! ワクワクドキドキのアスレチック満載! おもんない現実を吹っ飛ばすで!

白膠木簓ゴースト

ゴールにいる簓さんに辿り着いたら 願いを叶えるっちゅー太っ腹っぷり! 参加せな損やで~!

白膠木簓ゴースト

因みに、【MIRA】は安全安心な場所や。 その証拠に、俺が先に行って待っとるで!

――画面にノイズが走る。

白膠木簓

な、なんちゅーことを……。 姿は同じに見えるし、偽物やゆーても 信じてもらえへんかもしれん……。

白膠木簓

それに、この番組を作っとるんは あんま大きないところや……。 こないな放送事故、番組の存続にかかわるかもしれん。

スタッフ

が……画面、戻ります!

白膠木簓

……っちゅー夢を見たんですわ。 【MIRA】がほんまに安全になったら、 そんなイベントも企画してみたいもんやな。

司会

な、なるほど! それでは先ほどの話はすべて夢の中の話だと! 視聴者参加型のイベントは楽しそうですね!

白膠木簓

ってなわけで、 今の【MIRA】には入ったらあかんで! 絶対に入らんといてや!

司会

皆さん、くれぐれも入らないように! 以上、白膠木簓さんでした!

スタッフ

カットー! お疲れさまでした! 一時はどうなることかと……!

――簓、スマホを取り出す。

白膠木簓

まさか、【ゴースト】が番組を乗っ取るやなんて……。 ネットの反応は……って、あかん! 「入るな」が「フリ」やと思っとる視聴者がおる!

――着信音

白膠木簓

盧笙からや……!

――通話

躑躅森盧笙

お前、なんちゅーことしとんのや! 思わせぶりなこと言いよって! あれやったら、「フリ」やと思うやろ!

白膠木簓

ちゃう、ちゃう! 【ゴースト】に番組を乗っ取られたんや。

躑躅森盧笙

はっ! そ、そうやったんか……。

白膠木簓

今、番組側で対応を考えとるところや。 ログイン防止策は任せるとして、 俺らがやるべきことは……。

躑躅森盧笙

フリやと思ってログインした連中を助けることやな。 そんなら、実習生に連絡しとくわ。

白膠木簓

すまん。 ログインするタイミングを合わせなあかんやろうし、 俺の連絡先も伝えといてくれへんか。

躑躅森盧笙

わかった、任せとき。 じゃあな。

――通話終了

白膠木簓

とにかく、ログインする準備せなあかんな。 【ゴースト】が言うたことが、ほんまやったら でっかいアスレチックがあるはずや。

白膠木簓

まずはそこを目指す。みんなの笑顔を 取り戻すためやったら、アスレチックやろうが 熱湯風呂やろうが、なんでもやったるわ!

――実習生の部屋

実習生

すぐに盧笙さんから連絡がきた。 おふたりの力があれば【ゴースト】に対抗できるはず。 あとは……。

――着信音

実習生

零さんだ……!

――通話

天谷奴零

よぉ、面白そうなことになってるじゃねぇか。 俺も混ぜてくれねーか?

実習生

もちろんです!

天谷奴零

歓迎してもらえて嬉しいぜ。 お前に、確認したいこともあってな。

実習生

確認したいこと?

天谷奴零

今は急いだほうがいいだろうから、現地で話す。 それよりも、【ゴースト】がおっぱじめたみたいだぜ。

実習生

零さんに促されてネット動画を見る。 簓さんの【ゴースト】がライブ配信を開始していた。 番組名は――「通天閣への道」。

天谷奴零

願いごとを叶えるのが賞品らしいからな。 VRオオサカに囚われていた連中も集まるかもしれねぇ。

実習生

みんなを帰すチャンスですね

天谷奴零

その意気だ。 それじゃあ、VRオオサカに行ってるぜ。

――通話終了

実習生

自分は、自分のできることをやるしかない。 帰りたいのに帰れない人たちや、 待っている人たちの笑顔を取り戻すために。

――【MIRA】へログインする。

TRACK 3 命がけのチャレンジ

――VRオオサカ 路地裏

躑躅森盧笙

お、来よったな。

白膠木簓

実習生~! こんにチワワ!

実習生

ふふ、簓さんは面白いですね

躑躅森盧笙

そんな、笑っとる場合か……。

白膠木簓

いやいや。 大仕事の前こそ、リラックスが必要や。 肩の力を抜いた方がええで~。

天谷奴零

遅れちまったぜ。 待たせてすまねぇな。

白膠木簓

零も来てくれたんか。 これは心強いわ~。

実習生

それで、アスレチックは……

白膠木簓

あれや!

躑躅森盧笙

な、なんやこれ! 現実のオオサカに無いモンが建っとる!

天谷奴零

ほー、 ずいぶんとやりがいがありそうだな。

実習生

ボルダリングや、転がるドラム缶の上に乗ったり、 様々なアスレチックをこなした後に 巨大迷路を経由して通天閣を目指すようだ。

躑躅森盧笙

ボルダリングの下、サメが泳いどる……。 落ちてもうたらサメに食われるんか……?

天谷奴零

すでに何人も集まってんな。 やる気があっていいことだが……。

実習生

ケガをしたらタダでは すまないのでは……

白膠木簓

ケガ……!

天谷奴零

そうだな。 VRとはいえ、精神を繋げてるんだ。 身体が傷つくことはねぇが、精神はどうだかな。

躑躅森盧笙

そない危険なことをさせとるんか……! なにが安全安心や! 早よ止めんと……!

実習生

この「通天閣への道」は ログイン禁止の【MIRA】で行われる、 一般人の決死の挑戦というコンセプトらしいが……。

白膠木簓

あかん!

躑躅森盧笙

うおっ、びっくりした! いきなり叫ぶなや!

白膠木簓

こんな危険な番組、お笑いとちゃうわ! 人にケガさせてええわけあるかい!

白膠木簓

盧笙、俺らもアスレチック攻略するで! 【ゴースト】に、こんな番組をやめさせるんや!

――簓、走っていく。

躑躅森盧笙

お、おう! ……って、アスレチックはちゃんとやるんかい!

――VRアスレチック ボルダリング

天谷奴零

【ゴースト】の領域じゃ、小細工は通じない だろうしな。俺は、アスレチックから 脱落した連中を、助けに行くとすっかね。

実習生

ログアウトなら任せてください!

天谷奴零

助かるぜ。 おいちゃんひとりじゃログアウトさせられねぇしな。

白膠木簓

そんなら、ふたりが攻略しやすいように先行しとくわ!

躑躅森盧笙

おい! いきなり止まるな!

――盧笙と簓、ぶつかる。

白膠木簓

あかーん! 池ポチャしてまう!

躑躅森盧笙

簓ァー! 踏ん張れやーーーっ!

白膠木簓

ふー、危なかった~。 持つべきものは体幹やな! サメに襲われそうになって目がサメたわ。

躑躅森盧笙

ヒヤヒヤさせよって……。 ダジャレまでかますなんて余裕やないか……。

天谷奴零

アスレチックの攻略はあいつらに任せておけばいいな。 俺たちは俺たちで、やるべきことをやるか。

実習生

はい!

実習生

自分は零さんとともに脱落者の救助に向かった。 池に落ちてサメに襲われそうになった人に手を貸し、 なんとか水の中から出した。

脱落者

はぁはぁ……助かった。 ずっとログアウトできなくて……。 だから、ログアウトするという願いを叶えたくて……。

天谷奴零

やっぱりな。 VRオオサカに残ってた連中も集まってるか。 ログアウトさせるには好都合だが……。

実習生

これも【ゴースト】の狙い……?

天谷奴零

簓の【ゴースト】だからな。 考えなしってわけでもなさそうだ。 それに、大規模リニューアルってのが気になる……。

実習生

アスレチックのことを指しているわけではないの だろうか。【ゴースト】の思惑が気になりつつも、 助けた人たちをログアウトさせていった。

白膠木簓

ふたりともー! ボルダリング、クリアしたでー!

躑躅森盧笙

そっちがひと段落したら来たってやー!

天谷奴零

おう。 こっちは全員ログアウトさせた。 今すぐ行くぜ。

実習生

脱落した人たち全員をログアウトさせることができた。 挑戦中の人たちは、道すがらログアウトさせよう。 自分と零さんは、簓さんたちのほうへ向かうことにした。

天谷奴零

ときに、実習生。 お前に確認したいことがあるんだが。

実習生

はい?

天谷奴零

お前の恩師、神来社識っていう奴で間違いないな?

実習生

は、はい……!

天谷奴零

なるほどな。 いや、少し調べたいことがあってな。 調査が進んだら改めて話す。

実習生

零さんはそう言って先に進む。 神来社さんの名前は調べればすぐに出てくるものの 零さんはどうしてこのタイミングで……。

TRACK 4 試練越えられるかもしれん

実習生

どうして零さんが神来社さんのことを……。 だが、 今はログインしている人を助けることが最優先だ。

天谷奴零

さて、俺たちもサメがいるボルダリングを 攻略しないといけねぇわけだが……。

実習生

簓さんと盧笙さんは、すでに向こう岸にいる。 自分たちも、 なんとか対岸に渡らなければならないが……。

躑躅森盧笙

ふたりが攻略しやすいようにと思って ロープを探したんやけど、 なんぼ探しても見つからんくてな……。

天谷奴零

こりゃあ難儀そうだな。 おいちゃんと一緒に行くか?

実習生

ふたりで行くのは危険です……!

白膠木簓

せやな……。 ふたり一緒やと逆に危険や。 ひとりひとり、慎重に攻略した方がええ。

天谷奴零

それもそうだな。 んじゃ、先に行くぜ。 ゆっくり来な。

実習生

零さんは楽々とボルダリングを攻略した。 次は自分の番だ……!

白膠木簓

ふんばれーっ! 右上のホールドを掴むんや! 足は隣にずらせばええ!

実習生

はい……!

躑躅森盧笙

よかった! 無事に着いたな! えらいで!

実習生

簓さんがアドバイスをくれたお陰で、 なんとか攻略できた。 次はドラム缶を転がして対岸を目指すようだが……。

――VRアスレチック ドラム転がし

躑躅森盧笙

こいつは足場が安定せん。 さっきみたいにはいかんな……。

実習生

体幹には自信があります!

天谷奴零

ほう。 いいツラしてるじゃねぇか。 ここは任せてみるとするかね。

躑躅森盧笙

無理せんでもええんやで。 別の方法があるかもしれんし……。

白膠木簓

このアスレチックは、さっきよりも難易度が高い。 ……それでも、ひとりでやるんやな。

実習生

はい……!

白膠木簓

ほんなら、簓さんが後ろで見守っとるわ。 盧笙、零、先に行ったってくれ。

躑躅森盧笙

あ、ああ……。

天谷奴零

それじゃあ、おいちゃんは先に行くぜ。

躑躅森盧笙

のわーっ! 腹筋に力を入れんと、足が持ってかれるわ!

天谷奴零

ははっ。 なかなか愉快なアスレチックじゃねーか。

実習生

零さんは余裕で渡りきった。 さすがの一言だ。

実習生

自分も……行きます!

白膠木簓

腰を落として重心を下にして、 右足が持っていかれる前に、左足を出すんやで!

実習生

はい!

躑躅森盧笙

いけーーー! あと少しやーーー!

天谷奴零

よしよし。 よくできたじゃねぇか。

白膠木簓

実習生の芸人魂、 しかと見届けたで! 俺も負けてられへんな!

躑躅森盧笙

実習生は芸人とちゃうやろ!

天谷奴零

ははっ、 お前ら息ぴったりだな。 配信見てる奴らも笑ってそうだぜ。

実習生

簓さんも無事にドラム缶を攻略した。 そのあとも数々のアスレチックを攻略し、 待ち構えていた電脳ラッパーを倒していった……。

――VRアスレチック 巨大迷路

白膠木簓

こいつが最後のアスレチックやな……! この巨大迷路の先に通天閣があって、 俺の【ゴースト】がいるはずや……!

躑躅森盧笙

迷路なら、左手で壁を伝って行けばええ。 時間がかかるかもしれんが、確実に攻略できるはずや。 なあ、おっさん。

天谷奴零

ん? あ、ああ、そうだな。

躑躅森盧笙

なんやおっさん、ぼんやりして心配やな。 俺がしんがりを務めるか。

白膠木簓

そんなら、俺が先頭やな。 実習生、行くで。

実習生

はい!

――……

――盧笙、零にぶつかる。

躑躅森盧笙

おい、零! なんで止まるんや!

天谷奴零

いや、先に行けねぇんだ。 半透明の壁ができちまった。

白膠木簓

あっちゃー。 そんな仕掛けがあったなんてな。 二手にわかれてゴールを目指すしかないか。

躑躅森盧笙

しゃーない。 またゴールで! 左手で壁を伝って行くのを忘れたらあかんで!

実習生

神来社さんのことを聞くタイミングがなかった。 落ち着いてから話してくれるだろうけど、 どうしても、気になってしまう……。

白膠木簓

実習生、実習生。

実習生

はい……?

白膠木簓

見えへん壁で惑わすなんて、 この迷路、明朗さが足りひんわ……!

実習生

ふふふっ……

白膠木簓

よし、ええ顔になったな。 苦しい時こそ笑いが大切や。 笑う門には福来るって言うしな。

白膠木簓

気になることや、悩んでることがあるんやったら あとで簓さんがいっくらでも聞いたるわ。 どーんと大船に乗ったつもりで頼ってや!

実習生

簓さんの気づかいが温かい。ドラム缶の時も、 フォローしようと待っていてくれたんだろう。 だからこそ、甘えてばかりはいられない。

実習生

ありがとうございます

白膠木簓

礼なんかいらへん。 苦しい時はお互いさまや。

実習生

はい!

――……

実習生

途中で未帰還者を助けつつ、半透明の壁に阻まれながらも 左手で壁を伝いながら歩いていくと ようやく通天閣が見えてきた。

白膠木簓

ようやくゴールに着きそうやな。 お疲れさん。 盧笙と零も、じきに着くやろ。

実習生

盧笙さんと零さんの声も聞こえてきた。 通天閣はすぐそこだ。 【ゴースト】と決着をつけなくては。

TRACK 5 ヌルデの笑いはヌルないで

――VRオオサカ 通天閣

白膠木簓ゴースト

よぉ来たな。 攻略できるとは思わんかったわ。 おもんない現実とは違って、刺激的でおもろかったやろ!

白膠木簓

確かに刺激的やったし、 オモロイを追究するんはええ。 けど、半強制的に一般人を巻き込むんは感心せんわ。

天谷奴零

参加者のほとんどが、現実に帰るっていう願いを 叶えてもらうために参加してたしな。 楽しんでる奴はいなかったように思えるぜ。

躑躅森盧笙

しかも、危ない仕掛けまで設置しよって……! ケガして大ごとになったらどないするんや!

白膠木簓ゴースト

刺激があるからおもろいんや。 台本不要、ハプニングこそ極上のスパイス!

白膠木簓ゴースト

素人が必死になる、その姿こそ視聴者に刺さるんや。 安全なんてない、ギリギリアウトこそ正義!

白膠木簓

あかーーーーーん!!!

Chapter 12
白膠木簓

事故やケガ人はお笑いのご法度! 安全面に配慮するんが番組側の義務や! せやないと、番組がお蔵になってまうで!

白膠木簓ゴースト

……ちっ、 おもんない奴。

白膠木簓ゴースト

どうせ、白膠木簓はふたりもいらんしな。 刺激的なお笑いがええか、ぬるいお笑いがええか、 ここで決着つけるで。

電脳ラッパー

YO! ゴールでは俺たちとバトルだぜ!

実習生

どこからともなく現れた電脳ラッパーが自分たちを囲む。 戦うしかないようだ……!

白膠木簓

こないなとこで負けたら、 「ぬるいで、簓!」ってな。

躑躅森盧笙

一般人を危険に晒す奴は、どついたらなあかん。 簓、手伝うで!

天谷奴零

簓を持っていかれても困るんでね。 俺もやらせてもらうぜ。

白膠木簓

実習生! 頼んだで!

実習生

ツッコミをくれてやりましょう!

――マイクの封印を解除する。

白膠木簓

ほな、行くでー!

――……

白膠木簓ゴースト

ぬわーーー!

白膠木簓ゴースト

アホな……! おもんないのは……俺のほう……なんか?

白膠木簓

ラップバトルに負けたからゆーて、 おもんないのとちゃう。

白膠木簓

それに、今回は俺のほうがウケただけや。 お笑いは、一度ウケへんかったからって終わりやない。 なんぼでも挑戦できる。誰かを傷つけん限りはな。

白膠木簓ゴースト

……なにが言いたいんや?

白膠木簓

番組も同じっちゅーことや。 お前の考えた企画、振り返ってみ。

白膠木簓ゴースト

俺はおもろさを……強い刺激を追い求めて アスレチックを考えついた。 でも、誰かを傷つけたらそこで終わり……か?

白膠木簓

大勢に長く見てもらえて、 ぎょーさん笑ってもらえる番組は、安全あってこそや。 そんで、身体を張って刺激を作るんが俺らの仕事やで。

白膠木簓

ちなみに! お笑いのためやったら、簓さんが ふたりやろうが3人やろうが、なんぼおってもええ。 おもろいコントができそうや!

躑躅森盧笙

お前みたいに騒がしい奴、 なんぼもおったらたまらんわ。

白膠木簓

ほんなら、 静かにしとったら100人おってもええんか?

躑躅森盧笙

そんなんテレビに映しきれるか! もうええわ!!

天谷奴零

ははっ。 簓が100人いたら、盧笙もツッコミきれねぇな。

白膠木簓ゴースト

……ははっ。 これは敵わんわ……。 けど、次はきっと……。

白膠木簓

ああ。 お前からの挑戦状、いつでも受けつけるで!

白膠木簓ゴースト

そんときは……全力でどついたるわ……。

実習生

簓さんの【ゴースト】は満足そうに笑って消えた。 面白さを追い求める気持ちは、 簓さんと同じだったのだろう……。

――突然、地面が揺れる。

白膠木簓

な、なんや!?

音声案内

【MIRA】のアップデートを開始します。 ユーザーの皆さまは、アップデートに備えてください。

躑躅森盧笙

アップデートやと!? 【ゴースト】は倒したのに、どういうことや!

天谷奴零

これが、大規模リニューアルってヤツか。 簓の【ゴースト】とは別に動いてたみたいだな。

白膠木簓

なんや、あかん気ぃする……! 早う残りの未帰還者をログアウトさせて、 俺らも脱出するんや!

実習生

アスレチックが消え、世界が揺れ動く中、 自分たちは未帰還者を保護し 急いでログアウトした……。

TRACK 6 統治AIの謎と内側

実習生

かなり慌ただしくログアウトしてしまった。 現実に戻った後、 皆さんの無事を確認するためにオオサカまで向かった。

――オオサカ 通天閣

白膠木簓

実習生、わざわざ来てくれておおきにな! それにしても、えらい目に遭うたわ~。 みんな、無事みたいやな。

躑躅森盧笙

なんとかな。 急いでログアウトさせた連中も無事ならええんやけど。

天谷奴零

そうだな。 実習生、確認できるか?

実習生

ちゃんとログアウトできているみたいです

躑躅森盧笙

そんなら、ひとまずは安心やな。

白膠木簓

事故もなく終わったんやったら、なによりや。 でも、まだ問題がありそうやな? 難しい顔をしとるやんか。

実習生

【MIRA】の様子が探れなくて……

実習生

ログイン情報は見れるが、 それ以上の内部情報はまったくわからない。 セキュリティが大きく変わっている。

天谷奴零

やっぱり、こっちからは見られないようになってるか。 直前まで探っていたが、これ以上は無理みたいだな。

躑躅森盧笙

零、たまにぼんやりしとんなー思うたら、 そんなことしとったんか!

天谷奴零

おいちゃんは詮索好きなもんでね。 面白そうなことは、ついつい調べちまうのさ。

天谷奴零

そうそう。 実習生には、 教えておいた方がいいことも見つかってな。

実習生

なんですか……?

天谷奴零

どうやら、統治AI「QUEENS」には、 【MIRA】の創造主である神来社識のAIが 組み込まれているようだ。

実習生

え……!?

天谷奴零

死んだはずの人間のアカウントが、動いていたのが 気になって、神来社に絞って調べてみたんだ。 そしたら、ちょいとした情報が見つかってな。

躑躅森盧笙

自分のAIを組み込めば、本人がいなくなったとしても おおよその意思を引き継ぐことができる。 理に適った話やけど……。

白膠木簓

実習生には、笑える状況や なさそうやな?

実習生

そうですね……

白膠木簓

そういうときもあるモンや。 笑顔を取り戻したくなったら、 簓さんはいつでも手貸すで。

実習生

今は真実を受け止めるので精いっぱいだ。 こういう時にそっとしてくれる簓さんは、 やっぱり一流のエンターテイナーだと思う。

天谷奴零

【MIRA】に関しては、引き続き探ってみる。 そっちもなにかあったら……ん? 【MIRA】のロックが解除されたな。

実習生

見てみます!

実習生

たしかに、 【MIRA】にアクセスできるようになっていた。 だが、全ての仕様が変更されている……。

白膠木簓

大規模リニューアルをするために、一時的に 大勢の精神エネルギーが必要やったんかもしれんな。 【ゴースト】が派手に人を集めたんはそのためか。

躑躅森盧笙

いったい、【MIRA】はなにを目指しとるんや。 ええ加減にしてほしいわ。

天谷奴零

なにを目指しているのか。 それは、裏で動かしてる奴にしかわからねぇ。 なあ、実習生。

実習生

神来社さんの意思がAIとなって生きている。 そして、【MIRA】の大規模アップデート。 自分はこの先、どうすればいいのだろうか……。

Chapter 12 END