

――ヨコハマ 山下公園
――遠くでパトカーのサイレンが鳴り響いている。
……チッ。 落ち着かねぇな……。
どうした、左馬刻。 小官をこんなところに呼び出して。
……ウサ公が来たら話す。
了解した。 しかし、銃兎が遅れるとは珍しいな。 それに今日はやけに街が騒がしいようだ。
すまない……! 遅くなった……!
随分待たせてくれるじゃねーか。 どっかのクソ野郎が暴れてたのか?
いや、それよりも厄介な事態だ。 インストールしていないはずの人間のスマホに、 【MIRA】が勝手にインストールされている。
ヨコハマ中で同様の事案が発生している。 このままでは、他のディビジョンも……。
チッ……! 派手にやってくれるじゃねぇか……。
他人のスマートフォンに勝手に干渉するとは……。 だが、ログインしなければ問題ないはずだ。
インストールだけで終わればいいんだが……。 ひとまず、今から防衛無線で ヨコハマ全体に注意喚起をする予定だ。
その勝手に入り込んだっつーアプリ、 消せねぇのかよ?
被害に遭った人のスマホを借りて試してみたが、 どうやってもアンインストールできなかった。
いっそのこと、 スマートフォン自体を処分するのはどうだ。
……いや、スマートフォンなしで生活するのは 現実的ではありません。仮に新しいものを買ったとしても 同じことが起こる可能性もある……。
だったら、別の手を試すしかねぇ。 そのためにテメェらを集めたんだからな。
別の手? どういうことだ?
そういえば左馬刻、 小官らを集めた理由をまだ聞いていなかったな。
組の連中のスマホにも、 【MIRA】が勝手にインストールされた。 そいつの対応でシノギどころじゃねぇんだよ。
クソアプリに俺様のシマを荒らされるのは 我慢ならねぇ。 だから、乗り込んでぶっ潰す!
敵陣へ乗り込んで落とし前をつける――、 左馬刻らしい判断だ。
文句はねぇよな?
単純かつ衝動的とも言えるが……、 現状、他に選択肢もないか。
小官も異論はない。 【MIRA】を止めたいという気持ちは同じだ。
それならまず、実習生に連絡を――ん……?
どうした?
署からの着信だ。 このタイミングだと嫌な予感がするな……。
――銃兎、通話に出る。
なんだと……!? 使用者が操作していないのに、 次々と強制ログインさせられている!?
ついに、アプリが勝手に起動し、 ログイン処理を行うまでになったか……。
クソが……! 次から次へとやりたい放題しやがって……!
強制インストールされた組の者の安否も気になるな。 それに、小官らも【MIRA】を インストールしている身だ。
俺様たちも無理やり引きずり込むってか? 気に食わねぇ。 だったら、先にこっちから乗り込んでやんよ……!
――実習生の部屋
――着信音
【MIRA】内部をモニタリングしていたチームからだ。 何か新しい情報が得られたのだろうか。
実習生、聞こえるか! 緊急事態だ!
チームのひとりが「暴力的なリリックが聞こえた」 と言い残して意識不明に……! 内部から精神攻撃を受けた可能性がある……。
愕然としながら返答し、通話を終える。 ログインしていないのに攻撃を受けるなんて……! 「暴力的なリリック」とはいったい……。
――着信音
銃兎さんからだ……!
――通話
よかった、無事ですね。
銃兎さん……!
ご存知かもしれませんが、 ヨコハマ中で強制的にログインをさせられる人が 続出しています。
調べてみたところ、 他の地域でも同じような現象が発生しているようだ。 開発会社にも次々と報告が上がっている。
それとは別に、問題があります……。
クソが! 俺様のシマで舐めたマネしやがって!
落ち着け、左馬刻。
テメーは好き放題されっぱなしでいいのか? 俺様は我慢ならねぇ。 先に行くぞ!
このように、 今すぐ行くと言って聞かない奴がいて……。
元々、我々は【MIRA】に行くつもりで あなたに連絡を取ろうとしていたのですがね。 その間に状況が進んでしまったというわけです。
そうだったんですね……
強制ログインについて、 何か知っていることはありませんか?
左馬刻さんの【ゴースト】が 関与しているかも……
他の【ゴースト】は倒してきましたからね。 しかし、左馬刻を基にした存在が敵とは、 非常に厄介だな……。
【ゴースト】がいそうな座標を絞ってからの ログインが有効かもしれない旨を伝えた。
なら、さっさと座標を出せよ。 お前ならできんだろ。
標的を絞って突入するというわけだな。 戦場において重要なことだ。
お手数をお掛けしますが、 ヨコハマに来てもらうことはできますか?
今すぐに向かいます!
自分は街の人々の状況を確認しつつ、 できるだけ情報を集めながら ヨコハマへと急行した。
――……
お待たせしました!
ようやく来たか。
あなたが強制ログインに 巻き込まれず到着できてよかったです。 自力で戻れるとはいえ、戦えはしませんからね。
強制的にログインさせられている人間は、 今後も増えていくと予想される。 小官らがログインさせられるのも時間の問題か……。
理鶯さんの言う通り、自分もMCのみなさんも、 いつ強制的にログインさせられても おかしくない状況だ……。
それで、 無理やり【MIRA】に引きずり込んでんのは 俺の【ゴースト】の仕業なのか?
まだ、可能性の段階ですが……
まあいい。 そいつがハマをこんな風にしてるのか、 それとも、別のやつがやってんのか。
どちらにせよ、俺の【ゴースト】は残ってんだ。 自分のケツは自分で拭く。
AIだかなんだか知らねーが、 俺様を基にしたっつーヤツの好きにはさせねぇ。
始末をつけるのは、 開発会社側では……
そうだとしても、 テメェらだけじゃ何もできねぇだろうが。
それに、俺様の姿で好き勝手しているとしたら、 放っておけねぇよ。
暴れれば左馬刻の腹の虫も治まりますからね。
聞こえてんぞ、ウサ公!
左馬刻はもとよりやる気だ。 実習生が気にすることはない。 お前は人々を救助することに集中すればいい。
はい!
私も、この混乱を最優先で解決したいですしね。 放っておいては事態が悪化するだけです。 さっさと片付けましょう。
小官も、左馬刻に協力する気でいたからな。 それに、見捨てては置けない状況だ。 共に戦おう。
つーわけだ。 行くぞ、実習生!
状況は変化し続けている。 早くこの状況を止めなくては。 左馬刻さんに頷き、VRヨコハマへとログインした。
――VRヨコハマ 山下公園
ここに、好き勝手やってるヤツがいんのか? 見たところ、それらしいのは見当たらねぇが……。
すみません。 座標が絞り辛くて……
小官のゴーストは森に潜伏していた。 左馬刻のゴーストもVRヨコハマのどこかに 潜んでいるのかもしれない。
それなら仕方がない。 といっても、闇雲に動き回るわけにもいかないか。
――周囲に視線を走らせる。
私は仕事をしてたはずなのに、 どうしてこんなところに……!?
俺は電車の中にいたはずじゃあ……。 悪い夢でも見ているのか……?
なんつー有り様だ。 こうしている間にも、 次から次へとログインしてきやがる。
ログインさせられた人が、あちらこちらで嘆いている。 手動で帰還させられないほどの規模だ。 早くなんとかしなくては……。
――謎アプリの通知音が鳴る。
神来社さんからだ……!
誰だ、そいつは。
自分は、左馬刻さんたちに 神来社さんのAIがアプリとして アドバイスをくれていることを説明した。
なるほど。 そのような経緯があったのですね。
亡き恩人が 形を変えてお前のもとにいるというのなら、 頼もしいことだな。
AIなので本人とは異なりますが……
テメェが信じるに足りると思ってりゃあ、何でもいい。 で、なんて言ってんだ。
【ゴースト】を目指せば、 解決のヒントが得られるだろうとのことです
狙いを絞って攻めるのは合理的だな。 しかしそれが、左馬刻の【ゴースト】となると 一筋縄ではいかなそうだが……。
我々の方針は間違っていなかったようだな。 問題は、【ゴースト】がどこにいるかだが……。
気に食わねぇな。 俺様の【ゴースト】だったら、 敵の前に面見せんのが筋ってモンだろ。
まあ、他に通さなくてはいけない筋が あるのかもしれないけどな。
んだと?
【ゴースト】には持ち場があるかもしれない ということだ。 それならば、小官たちで出向かねばなるまい。
俺たちが攻め込む側ってか。 クソ【ゴースト】が。 首洗って待ってやがれ……!
【MIRA】から攻撃を受けたとき、 暴力的なリリックが聞こえたと言っていた。 その証言から座標を割り出してみよう。
【ゴースト】の居場所は掴めたか?
恐らく、このあたりかと
なるほどな。 テメェがいると話が早くていいぜ。
左馬刻さんたちに座標を教え、 そちらに向かうことにした。
――……
ログインさせられた人は増える一方ですね。 急ぎましょう。
次に何かを仕掛けてくる可能性もある。 悠長にしていられないな。
のんびりするつもりなんざハナからねぇよ。 とっとと向かって、さっさとぶちのめす!
左馬刻さんの歩みは速い。 自分はみなさんに位置を伝えながら歩みを進める。
それにしても、ハマ全体が辛気臭い空気だぜ。
うう……。 どうやったら現実に戻れるの……?
どれだけの人がログインさせられたんだ……。 もう、ログインしていない人間のほうが 少ないんじゃないか?
――謎アプリの通知音が鳴る。
神来社さんのAIからメッセージだ。 自分の驕りが招いた結果なのかもしれない、 と胸を痛めている。
描いていた理想とかけ離れ、 【MIRA】が不幸な結果を招いている。 胸を痛めるのは当然のことだ。
何らかの介入でおかしくなったとしても、 歪みが生じる隙があったのも事実ということか。 神来社さんのことを想うと、自分も悲しい。
おい、足が止まってんぞ。 しょぼくれてる暇があったら先に進め。 置いてくぞ!
左馬刻の言う通りです。 落ち込んでいる時間はありません。
こうしている間にも、戦況が変わっている。 今は前進あるのみだ。
……そうですね!
それでいい。 テメェも決着をつけてぇなら、足並みを揃えろ。
みなさんから喝や励ましをもらって気持ちを持ち直し、 割り出した座標へと向かう。 辿り着いたその先には――。
なんだ、あれは……?
空間が、歪んでいる?
座標はここで間違いないのだな?
間違いありません
この先になにかありそうだな。 行くぞ、テメェら。 覚悟決めろよ。
フッ……。 最初から、出来てるさ。
問題ない。
覚悟は決まりました!
よし、行くぞ。
みなさんは迷わずにひずみの向こうへと踏み込む。 果たして、この先に何があるのだろうか。
――VR荒涼とした空間
ひずみの先には、荒涼とした空間が広がっていた。 左馬刻さんの【ゴースト】は 見当たらないようだが……。
今までとは少々違った雰囲気ですね。 いささか不気味と言いますか……。
ここは、【MIRA】に元から用意されていた 空間なのか?
いいえ……
それなら、こっから先はどうなってんのか わからねぇってことか。 面白ぇ。
世界の断片が剥ぎ取られている感じがする。 【MIRA】を構成する精神エネルギーが、 少しずつ移動しているのかもしれないと伝えた。
エネルギーが移動……ですか。 嫌な予感がしますね。
注意しろ。 前方に何かある!
なんだ……これは……。
周囲を構成している精神エネルギーは、 この門の向こうに流れているようだと 左馬刻さんたちに伝えた。
なら、この先に【ゴースト】がいるかもしんねぇな。 こじ開けるぞ!
ぬっ……くっ……! ……押しても引いても、びくともしないな。
ロックがかかっているようだな……。 無理やり開けられそうにない。
――謎アプリの通知音が鳴る。
高エネルギー反応が接近!? みなさん、気をつけて!
チッ……!
門の前に雑魚が集まってると思って来てみたら、 クソオリジナルじゃねぇか。

左馬刻の【ゴースト】……!
凄まじい殺気だ……。 左馬刻本人と同等か、それ以上の……!
バカなこと言ってんじゃねぇ。 この俺様が、クソ【ゴースト】に負けるわけがねぇ。
ハン、 口だけでならなんとでも言える。
いっちょ前に吼えやがって。 テメェから来るとはいい度胸だ! 覚悟しやがれ!
待ってください……! もう少し話を聞きたいです。
ああ? 俺様に待てってか?
私も賛成です。 今の状況では、情報が少なすぎる。
そうだな。 戦況を把握するのは勝利への近道だ。
チッ、 さっさと済ませろ!
なんだ、怖気づいたのか? くだらねぇな。
あなたたちは、 何をしようとしているんですか?
見りゃわかんだろ。 統治AI【QUEENS】の計画、 【MIRA】のアップデートを進めてんだ。
アップデート……? まさかそのために、 人々を強制的にログインさせたのか?
世界の維持に精神エネルギーが必要だとは聞いている。 膨大なエネルギーを集め、 どのような世界を築こうとしているのだ。
集めた精神エネルギーで 【MIRA】をアップデートさせれば、 人間の精神を【MIRA】とより深く繋ぐことができる。
そうすれば、 現実と遜色ないリアルさを体験させられるってわけだ。
そんなことをしたら、 ユーザーが危険です!
今ですら、眠ってるみてーになるんだ。 これ以上深く繋いだら、 二度と目が覚めなくなんじゃねぇのか?
そうだ。 だが、【MIRA】が現実になれば構わねぇだろ。 どうせ、全員こっちに来ることになるしな。
もしそうなったら…… 現実世界が……
……インフラも止まり、 人々の生活が成り立たなくなるでしょう。 そんなこと、看過できません……!
いいじゃねぇか。 現実世界は現実じゃなくなるわけだしな。
しかし、小官らの肉体は現実にある。 皆が覚めない眠りについたら、 いずれ死を迎えるはずだ。
肉体という名のデバイスが失われたとしても、 人格データがバックアップされてりゃいい。
肉体の死は本当の死じゃねぇ。 クソみてぇな器からの解放! 本当の自由だ!
そんなの、本当の自由じゃない!
……そうだな。 俺には、現実世界で通さなきゃなんねぇ筋がある。 仮想世界に閉じ込められるなんざ我慢ならねぇ。
質問は終わりか? こっちも喋り飽きたところだ。
ハッ、そう来なくちゃな。 存分に暴れてやんよ!
【ゴースト】たちとのラップバトルが始まる。 そう思った瞬間、自分のまわりを 電脳ラッパーが取り囲んだ!
YO! まずはお前からだ!
なっ……!
俺様たちの目的を果たすのに、 一番邪魔な存在だからな。 まずは、そいつから消してやるぜ!
ラップバトルが始まるのかと思いきや、 電脳ラッパーが取り囲んだのは自分だった。 手段を選ばないつもりだ……!
やれ!
させるかよ!
絶体絶命かと思ったが、 左馬刻さんが寸前のところで庇ってくれた。 そこに、銃兎さんと理鶯さんも割って入る。
フン……、 ずいぶんと姑息な手を使うようですね。
左馬刻を基にした割には、 やり口が似つかわしくないな。
なんとでも言え。 俺は、統治AIの目的を果たすためにここにいる。 もっとも邪魔な「危険因子」を、徹底的にぶちのめす!
イキってんじゃねぇぞ! データ野郎が!
戦えもしない人間をひとり潰すのに 大勢でかかるなんて、 ダセェことしてんじゃねぇ!
俺様の役目は邪魔者をぶっ壊すことだ! 戦えないやつだろうと何だろうと始末するだけだ!
コソコソとこちらを探っていた 開発会社の連中みたいにな!
やはり、開発者を襲った暴力的なリリックの正体は 【ゴースト】だった。 こちらを徹底的に潰す気だ……!
クソ【ゴースト】が……!

役目に囚われてダセェことしやがって! テメェの意思はねぇのか!
意思……だと?
信念や矜持。 テメェからはそいつを感じられねぇ。 筋を通そうっつー気概もな!
筋なら通してるぜ。 俺はやるべきことを確実に遂行する!
俺が問題にしてんのは気概のほうだ。 テメェはただ、役目に従って暴れてるだけだろうが。 そいつは道具と変わらねぇんだよ!
左馬刻の言う通りだ。 戦場において、 駒となって一心不乱に戦うことは得策ではない。
たしかに。 そこに信念がなければ、蛮行にすぎないしな。
……ゴチャゴチャぬかしやがって。 対象の破壊、 それこそが俺の意思だ!
そうかよ……。 それじゃあ、どっちの意思が強いか、 コイツで決めるぜ……!
――左馬刻、マイクを構える。
やれやれ、シンプル極まりないですね。 それではこちらも、 破壊されぬよう全力で行きましょう。
小官も実習生を防衛し、 障壁である【ゴースト】を打ち倒すことに専念しよう!
実習生!
自分も信念を貫きます!
――マイクの封印を解除する。
邪魔者は全て破壊だ!
そんな生温い覚悟で、ぶっ壊せると思うな!
――……
ぐあああっ!
意思の強さは、こっちが勝ってたみてーだな。
ぐっ…… クソっ……!
テメェらがやってることは筋が通ってねぇ。 相手に理想を押し付けて、挙句の果てに、 従わないから排除だ?
そんな機械みてぇな信念のねぇやり方で 俺様に勝てると思ってんのか。
ラップバトルの結果が全てですからね。 あなたに足りなかったものがわかったはずです。
信念の強い者が、最後まで戦場で立っていられるのだ。
テメェらは18体の【ゴースト】をぶっ飛ばした……。 その強さこそ、「筋」なんだろうな……。
おい、テメェが消えちまう前に、 あの門について知ってることを洗いざらい話せ。 知らねぇとは言わせねぇぞ。
……門の向こうには、 統治AI【QUEENS】が待っている。
俺様が門の鍵みたいなもんだ……。 俺様に勝ったテメェらは、 門の向こうに行く資格がある……。
――電子音が鳴る。
ロックが……外れた?
やってみりゃあいい……。 統治AI【QUEENS】とテメェら…… どちらのほうが気概が強いか……。
――【ゴースト】が消えていく。
やり合うまでもねぇよ。 まあ、やるってんなら付き合ってやるけどな。
この先に…… 統治AI【QUEENS】が……
左馬刻の【ゴースト】は倒したが、 大元を倒さない限り事態は収束しないのだろうな。
今、人々をログアウトさせても、 再び強制ログインさせられる可能性がありますね。 どうしますか?
考えをまとめたいです……
さっさとしろよ。 まだ目的は果たせてねぇんだ。
まあまあ消耗しましたしね。 現実の状況も把握したいですし、 仕切り直しは必要です。
だが、時間も限られているだろう。 実習生、再び門の前に戻ってくることは可能なのか?
この座標に飛べば可能なはず。 みなさんにそう伝えて、自分は座標を記録した。
なら、無駄足を踏むことはねぇな。 さっさと戻るぞ。
ああ。
帰るとするか。
強制ログインさせられた人々を一刻も早く救いたいが、 根本的な解決をしなくては同じことの繰り返しだろう。 心苦しさと歯痒さを胸に、現実へとログアウトした。
――ヨコハマ 山下公園
自分たちは、無事に現実世界へと戻って来た。 しかし、事態は変わっていない。 自分のスマホには、不在着信やメッセージが来ていた。
他のMCからですか。 彼らは何と?
どこのディビジョンも混乱しているようだ。 なんとかしたいというメッセージや、 こちらを心配するメッセージが多いと答えた。
他の連中は無事なのか?
みなさん、無事のようです
フン……。 くたばってなけりゃ、それでいい。
――謎アプリの通知音が鳴る。
神来社さんのAIからだ! メッセージをみなさんにも共有した。
神来社さんのAIいわく、 「全ての【ゴースト】を撃破し、 本来の役目を果たせるほどの力を得られた」と。
統治AI【QUEENS】の バックアップとしての機能が 果たせるようになったということか。
それじゃあ、 そいつを統治AIにできるってことだな?
実現するには、今の統治AIを退かせなくてはいけない。 元々は神来社さんのAIだったが、 もはや、歪んで【ゴースト】化しているのだろう。
結局、やることは変わりませんね。 事態を収束するには、今の統治AIを倒さなくては。
統治AIとの戦いか……。 今までの【ゴースト】との戦いとは違うのだろうか。
神来社さんのAIは、 今まで以上に激しい戦いになるだろうと予測している。 統治AIも本気で抗う可能性が高いという旨を伝えた。
相手が本気だろうがなんだろうが、 俺たちは全力で筋を通す。 今までと同じだ。
そうですね……!
やるべきことは決まったとして、 あなたはどうするんですか?
お前も組織に所属している身だ。 手続きというものがあるだろう。
会社に報告をします
それがいいでしょう。 私も一度署に戻らなくては。
小官も装備を整えたい。 だが、呼びかけがあればすぐに応じよう。
――立ち去ろうとする左馬刻。
左馬刻さん……!
……またな。
はい、また……!
次が最後の戦いになるだろう。 【MIRA】に囚われた人々を救うため、 今まで以上に気を引き締めなくては……。
