ヒプノシスマイク-Dream Rap Battle-

Chapter 14 激突! ふたりの熱血教師

TRACK 1 【MIRA】に消えた教え子

――オオサカ私立暁進高校 教室

――チャイムが鳴る。

躑躅森盧笙

……よし、今日はここまで。 みんな、課題を忘れんようにな。

生徒A

はーい。

躑躅森盧笙

そこの欠席しとる奴に、 次の授業までに課題やっとくよう伝えといてくれるか?

生徒B

あー……。 一応、連絡はしてみるけど。

躑躅森盧笙

なんや、歯切れ悪いな。 何かあったんか?

生徒A

俺も、詳しくは知らんのやけど……。

生徒A

俺らの中じゃ噂になっとるんや。 あいつ、【MIRA】に行ったまま帰って 来とらんのやないか、って。

生徒B

連絡しても、ずっと既読にならんのは妙やしな。 けど、家に行っても門前払いやし どうしたらええか……。

躑躅森盧笙

そうか……。 教えてくれて、ありがとうな。

躑躅森盧笙

少し、調べてみる必要がありそうやな。 簓たちと実習生に連絡してみるか……。

――……

――オオサカ 繁華街

実習生

盧笙さんから連絡を受け、 オオサカまでやってきた。

実習生

ひとまず電話でいいとは言われたのだが 自分も相談したいことがあり、 簓さん、零さんにも来てもらうようお願いした。

躑躅森盧笙

……というわけや。 その子の担任教師に 詳しく聞いてみたんやけど――

躑躅森盧笙

やっぱりその子は 【MIRA】から長期間帰ってきとらんらしい。 親御さんからも相談があったそうや。

白膠木簓

なるほどなぁ。 そら心配やな…… もちろん、今回も助けにいくんやろ?

躑躅森盧笙

ああ。放ってはおけんからな。

天谷奴零

ま、熱血教師らしい選択だな。

躑躅森盧笙

実習生。 頼ってばかりですまんが、 今回も協力してもらえんか。

実習生

もちろんです!

躑躅森盧笙

助かるわ。ありがとうな。

躑躅森盧笙

さて、俺からは以上や。 実習生からも、話があるって 聞いとるけど……。

実習生

実は自分も、未帰還者の件で……

実習生

最新の調査で、VRオオサカから 長期間帰っていない人々がいると わかった。

実習生

未帰還者の救出を 提案しようと思っていた――と、 3人に伝える。

白膠木簓

おお。ほんなら俺らで VRオオサカ・未帰還者救出作戦! ってとこか? かっこええやん!

天谷奴零

ま、悪くはねぇな。

躑躅森盧笙

なんや。零も乗り気か?

天谷奴零

俺は俺で、ちょいと調べたいことがあってな。 一緒に行かせてもらうぜ。

白膠木簓

ま~たなんか企んどるな? ほんなら先に情報共有せえ!

躑躅森盧笙

同感や。零の【ゴースト】ん時みたいに 利用されたらかなわんしな。

天谷奴零

信用ねぇなぁ。 ま、今回は隠すつもりもなかったから 教えてやるよ。

躑躅森盧笙

今回はってなんや、今回はって。

天谷奴零

俺の調査目的はな…… 例の、謎アプリの件だ。

白膠木簓

謎アプリか…… 実習生のスマホに 勝手に入っとったっちゅーヤツやな。

実習生

はい……

実習生

零さんの言う「謎アプリ」は、 自分のスマートフォンに勝手にインストールされていた 出どころ不明のアプリだ。

実習生

【ゴースト】を倒すと画面に炎が灯り、 なんらかの動作をしていること。

実習生

【ゴースト】を妨害するような仕様が 自動で追加されることがあり、 なんらかのAIが組み込まれているのかもしれない。

実習生

零さん、何かわかったんですか?

天谷奴零

ああ、まだ確信はねぇけどな。

天谷奴零

それを確かめるために……こいつを用意した。 実習生、スマホを出しな。

実習生

自分のスマートフォンを見ると、 零さんの端末からデータが送られてきていた。 その内容に、ざっと目を通す。

実習生

解析プログラム、ですか

天谷奴零

ご名答。謎アプリの挙動を記録して 解析するためのもんだ。

天谷奴零

アプリが次々とアップデートするもんで、 用意するのに時間がかかっちまったがな。

天谷奴零

とにかく、そのプログラムで解析するために 俺は【MIRA】での実地データがほしい。

天谷奴零

特に【ゴースト】を撃破したとき、 アプリに何が起こってるのかを きっちり観測しておきたい……ってわけだ。

躑躅森盧笙

なるほど。 実地データがあれば、【MIRA】やアプリについて 色々わかるかもしれんしな。

白膠木簓

そういうことやったら、納得や。

天谷奴零

そりゃあ良かった。 やれやれ、若いモンの信用を得るのは大変だねぇ。

躑躅森盧笙

日頃の行いのせいやろ!

天谷奴零

まあまあ。 とにかく【MIRA】に向かうぞ。 のんびりもしてられねぇからな。

躑躅森盧笙

ったく……。

躑躅森盧笙

ほな、いくで。 VRオオサカ・未帰還者救出作戦―― 【どついたれ本舗】、出動や!

TRACK 2 生徒の未来を守りたいんや

――VRオオサカ 大通り

躑躅森盧笙

最後に検知された履歴は、この辺り……か。

天谷奴零

ほかの未帰還者も、ここらにログが残ってる。 近いとこに集まってる可能性はあるな。

白膠木簓

集合場所があるんやったら話が早いな! あとはシューっとゴーして、みんなを助けるだけや!

躑躅森盧笙

そう簡単に見つかればええけどな……。

躑躅森盧笙

……ちょいまち。 この方角は、もしかして――。

――VRオオサカ私立暁進高校前

白膠木簓

学校か。 確かに人が集まりそうな場所やけど…… なんちゅうか、雰囲気おかしないか?

躑躅森盧笙

静かすぎるんや。 正門にも校庭にも、誰もおらんし……。

天谷奴零

だが、当たりみたいだぜ。 2階の窓で何かが動いてる。

白膠木簓

静かすぎる校庭に、謎の影! なんや、ホラー映画みたいになってきたなぁ。

躑躅森盧笙

アホなこと言うとらんで、校舎に入るで。 うちの生徒かもしれんからな。

――廊下

白膠木簓

誰もおらんと見せかけて、 敵がぎょーさん待ち受けとんのかと 思っとったけど……。

白膠木簓

警備も何もおらんやないかい!

躑躅森盧笙

静かにせえ!

白膠木簓

すまん。 今はシーンとするシーンやったか……。

躑躅森盧笙

はぁ……。

躑躅森盧笙

ここまでは誰とも出くわさんかったけど 気ぃは抜くなよ。

躑躅森盧笙

あの子にどないな事情があるんかわからんが…… もし敵がおるんなら、 おおごとにならんうちに保護したい。

天谷奴零

相変わらず教育熱心だねぇ。 担任クラスの生徒ってわけでもないんだろ?

躑躅森盧笙

ああ。 けど、担任やなくても 大事な教え子に変わりないやろ。

躑躅森盧笙

その子の未来や、命に関わることを みすみす見逃すわけにはいかん。

実習生

無事に連れ帰りましょう

実習生

直接の教え子でなくとも、 親身になって こちらのことを考えてくれる――

実習生

そんな盧笙さんの姿は、 どこか神来社さんと重なる。

躑躅森盧笙

実習生にそう言ってもらえると心強いわ。

躑躅森盧笙

よし、気ぃ引き締めていくで。

躑躅森盧笙

……静かに。 隣の教室から、声が聞こえる。

天谷奴零

俺が影を見たのと、同じとこだな。

躑躅森盧笙

よし。 まずは、気づかれんように そーっと……。

躑躅森盧笙

……!!

男子生徒

つまり、この数式のコツはやな…… これはよう使うから、 ちゃんとメモするんやで。

白膠木簓

どないしたんや、盧笙。 まさかあいつが……?

躑躅森盧笙

……ああ。うちの生徒や。

天谷奴零

生徒ねぇ。 今のあいつは、どうも教師みたいに見えるが。

躑躅森盧笙

教師って。何がどうなって――

躑躅森盧笙

いや。今はそれどころやない。 あいつを連れ戻すことを考えんと!

躑躅森盧笙

悪いな。邪魔するで!

男子生徒

躑躅森先生? どしたん、ぞろぞろ連れて――

白膠木簓

どうもー。 ヌルサラこと白膠木簓やでー! なんや教室暑いけど、今日室温何度や?

ほかの生徒たち

…………。

白膠木簓

おっ。その反応で冷気が来ーるってな!

天谷奴零

そのへんにしておけ。

白膠木簓

俺はまだまだいけるで!

天谷奴零

なーんか様子がおかしいんだよな。 座ってる奴らも、ただの生徒じゃなさそうだ。

男子生徒

な……なんやあんたら、急に入ってきて 好き勝手言うて!

男子生徒

僕の授業を邪魔するんやったら 出てってくれ! そうやろ、躑躅森先生!

躑躅森盧笙

授業、か。 まさかとは思ったが……。

躑躅森盧笙

そういえば、前に言うとったな。 「数学教師になりたい」って。

男子生徒

そ、そうや。 僕はここで夢を叶えて、 「完成された人間」になったんや!

男子生徒

それを叶えさせてくれたんは 躑躅森先生やのに…… なんか、今日の先生は変やな?

躑躅森盧笙

事情はわからんが…… ええか、よう聞くんや。

躑躅森盧笙

このままここにおったら 現実のお前は衰弱してまう。

躑躅森盧笙

お前の夢のことはわかっとるけど、 現実に帰ってから教師を目指したって――

男子生徒

……なんで、そんなこと言うんや。 僕は夢を叶えて、満足しとるんや!

男子生徒

邪魔するんやったら…… たとえ先生でも、出て行ってもらう!

男子生徒

みんな! あいつらと躑躅森先生を追い払ってくれ!

――生徒たちの姿が電脳ラッパーに変わる。

白膠木簓

げっ! 生徒みんな、電脳ラッパーやったんか!

躑躅森盧笙

くそっ! どけ! 俺は、あいつを連れ戻さんと……!

天谷奴零

待ちな! ここで戦えばあの子を巻き込んじまうぞ!

躑躅森盧笙

く……っ!

実習生

場所を変えましょう!

躑躅森盧笙

……わかった!

躑躅森盧笙

待っとれよ。 必ず助け出すからな!

TRACK 3 現実で叶えられなかった夢

白膠木簓

……なんや、あいつら 全然追ってこぉへんやんか!

天谷奴零

教室を離れてくれりゃあ あいつを助けやすかったんだが。 そう簡単には乗ってくれねぇか。

天谷奴零

それに、電脳ラッパーの統率もとれてるみてぇだ。 あいつとは別に、電脳ラッパーに 命令してる奴がいそうだな。

躑躅森盧笙

【ゴースト】……か。 ここにおるとしたら、やっぱり――

――校内放送が流れる。

躑躅森盧笙ゴースト

気づいてくれたようで、何よりや。 ちゃんと話すんは初めてか? 躑躅森盧笙。

躑躅森盧笙

……お前やな。 うちの生徒を、ここに縛りつけとるんは!

躑躅森盧笙ゴースト

そんなんやない。 俺は夢を叶えてやっとるだけや。 あの子が満足しとるんは、お前もわかったやろ?

躑躅森盧笙

それは……!

躑躅森盧笙ゴースト

まあ、生真面目なお前のことや。 俺かて、いきなり納得させられるとは 思ってへん。

躑躅森盧笙ゴースト

せやから、30分だけ時間をやるわ。

躑躅森盧笙

なに……?

躑躅森盧笙ゴースト

その目で見て回るとええ。 俺がここで、何を実現しようとしとるんかをな。

躑躅森盧笙ゴースト

30分後、お前の答えを聞かせてもらう。 俺の夢を肯定するか…… 拒絶するかをな。

――校内放送が終わる。

躑躅森盧笙

あ、おい!

躑躅森盧笙

見て回れって? わけがわからん……。

天谷奴零

どうやら、仕掛けてくるわけじゃあ なさそうだな。 となれば……

天谷奴零

この状況を利用しない手はない。 さっさと見て回って、データを集めるぞ。

――先に歩き出す零。

白膠木簓

おい! せっかちなおっさんやなぁ。

白膠木簓

盧笙、平気か?

躑躅森盧笙

あ、ああ……。 覚悟はしとったけど、自分の【ゴースト】が 生徒をかどわかしとるとは……。

実習生

無理をしないでくださいね

躑躅森盧笙

ああ……ありがとうな。 ちぃとばかし驚いたが、もう大丈夫や。

躑躅森盧笙

よし。俺らも行くで。 零の言う通り、 この状況を使ったほうがよさそうやしな!

――……

白膠木簓

警戒はされとるようやけど…… ほんまに誰も襲ってきたりせえへんな。

天谷奴零

敵地の真ん中でこれとはねぇ。 【ゴースト】とはいえ、先生の真摯な性格が 出てるってところか。

躑躅森盧笙

そう言われても、複雑やな……。

白膠木簓

お! ハサミの音が聞こえるな。 ここは美容師になりたかった人が チョキチョキやっとるみたいやなぁ。

躑躅森盧笙

子どもだけやのうて、 大人もここに囚われとるんやな……。

天谷奴零

俺が見た教室には、 医者や看護師になった大人もいたぜ。

天谷奴零

どいつもこいつも 「現実で叶わなかった夢を叶えられた」って 喜んでたが――

天谷奴零

客も患者も、電脳ラッパーが演じてるだけだ。 これで「夢を叶えた」って言っちまって いいのかねぇ。

躑躅森盧笙

確かに、みんな笑顔で 幸せそうに過ごしてはいる。

躑躅森盧笙

けど、こんなんは――

男子生徒

躑躅森先生!

躑躅森盧笙

お前は……!

男子生徒

さっきはごめん、いきなり怒ったりして。

男子生徒

僕の夢を叶えてくれた先生が あんなこと言うなんて、混乱してもうて……。 謝りたかってん。

躑躅森盧笙

いや。俺のほうこそ、事情も聞かんで…… 悪かったな。

躑躅森盧笙

できたら、話してくれへんか? お前がずっと、ここにおる理由。

男子生徒

……改めて聞きたいっちゅうことなんかな。 まあ、躑躅森先生にも関係あることやし。

躑躅森盧笙

俺に?

男子生徒

……僕な。 躑躅森先生に憧れて、 教師になりたいって思っててん。

男子生徒

けど、憧れれば憧れるほど 教師に向いてないんやないかって不安になって…… 正直、挫折しかけてたんや。

躑躅森盧笙

そうやったんか……。

男子生徒

でも、ここに来て夢が叶った。 僕は教師になって、理想の生活をしとる。 ほかのみんなもそうや。

男子生徒

せやから、先生。 頼む。僕たちのことは放っといてくれ。

男子生徒

僕は、ここにおりたいんや……!

躑躅森盧笙

お前……。

――校内放送が流れる。

躑躅森盧笙ゴースト

時間や。

白膠木簓

出たな、【ゴースト】!

躑躅森盧笙ゴースト

時間きっかりやろ。

男子生徒

どういうことや。 躑躅森先生がふたり……!?

躑躅森盧笙ゴースト

驚かせてすまんな。 けど、今はこいつと話させてくれ。

躑躅森盧笙ゴースト

盧笙。 お前の答えを聞かせてもらうで。 俺の夢を肯定するか、それとも……。

躑躅森盧笙

…………。

躑躅森盧笙

確かに、お前の言う通り…… ここにおる人たちは、満足しとるみたいやな。

躑躅森盧笙

いきなり将来の夢が叶って 理想の生活送れて…… それは、事実として認めるわ。

躑躅森盧笙ゴースト

そうか。ほんなら……。

躑躅森盧笙

けどな…… 俺はやっぱり、納得いかん!

男子生徒

先生……!?

白膠木簓

ははっ、やっぱりなぁ。

躑躅森盧笙ゴースト

なら、お前にはあるんか? 俺の示す理想を打ち負かすだけの、 夢や理想が。

躑躅森盧笙

それはやな……

躑躅森盧笙

すまん! まだわからん!

躑躅森盧笙ゴースト

なんやと……?

躑躅森盧笙

正直今は、うちの生徒やほかの人らを 説得するだけの言葉がまとまらん。

躑躅森盧笙

そらそうや。お前が長いことかけて 作った理想郷を、30分で否定するんは さすがに骨が折れる。

躑躅森盧笙

せやから…… もう30分、考える時間をくれ!

躑躅森盧笙ゴースト

……ふざけとんのか?

躑躅森盧笙

ふざけとるわけやない。 ほんまは1ヶ月くらい考えたいところやけど、 一刻も早く生徒たちを連れ戻したいからな。

男子生徒

躑躅森先生! 僕らのことはええって……!

躑躅森盧笙

すまんな。 お前の気持ちはわからんでもないが…… 俺は諦めが悪いんや。できることはさせてもらう。

躑躅森盧笙ゴースト

はっ。いくら考えようと無駄や。 お前の望む結果にはならん。

躑躅森盧笙ゴースト

聞いとるか、みんな! こいつらはお前らを連れ戻そうとする 邪魔者や。

躑躅森盧笙ゴースト

追い出すのに協力してくれ!

――大勢の足音が響く。

美容師をしている女性

なんで連れ戻そうとするんよ? 私たち、こんなに幸せやのに……。

看護師をしている男性

俺たちは、ここでずっと暮らすんや。 頼む、出て行ってくれ!

電脳ラッパー

残念だが、考える時間はないぜ!

電脳ラッパー

とっとと出ていけYO!

天谷奴零

やれやれ。 今は聞く耳もたずか。

躑躅森盧笙

しゃあない。 考える時間は、自分で稼がせてもらうで!

躑躅森盧笙

いくで、みんな! 戦略的撤退や!

白膠木簓

了解!

――盧笙たち、走り去る。

躑躅森盧笙ゴースト

馬鹿にしよって…… 追え! あいつらを逃がすな!

TRACK 4 挫折を受け入れた先に

――校庭

電脳ラッパー

逃がすかYO!

白膠木簓

ほんま、しつこい連中やな!

躑躅森盧笙

考える時間がほしいだけやのに…… どっかで追手をまきたいとこやな……!

天谷奴零

どうするよ?  あいつらの動きを見るに【ゴースト】からは 俺らの居場所が見えてるようだぜ。

天谷奴零

追手と戦ってもいいが その間に追いつかれちゃ意味がねぇか――

――実習生のスマホの通知音が鳴る。

白膠木簓

なんや!? こんな時に……。

天谷奴零

いや。こんな時だからこそかもしれねぇ。 実習生、スマホを見てみろ!

実習生

わかりました!

実習生

スマートフォンを見ると、 謎アプリの画面がひらいている。

実習生

これは……。

実習生

そこに映っていたものを共有すべく、 盧笙さんたちにも画面を見せる。

躑躅森盧笙

これは……この校内のマップか!? 移動しとる光は、電脳ラッパーたちか。

躑躅森盧笙

ほんで、俺らがいる場所から延びとる線は――

天谷奴零

俺たちが進むべきルートってとこだな。 ご丁寧なこった。

白膠木簓

なんや? おっさんの解析プログラムとやらで パワーアップしたんか!?

天谷奴零

そんな機能は仕込んでねぇよ。 可能性があるとすれば……。

実習生

アプリがアップデートした……?

天谷奴零

そういうことだろうな。

実習生

以前にも、このアプリが 【ゴースト】に対抗するための アップデートをしたことはあった。

実習生

今回も【ゴースト】と戦うための情報を 提供してくれているのかもしれない……。

実習生

まだ確証はないが、 盧笙さんたちに、そう伝える。

躑躅森盧笙

確かに…… 一理あるか。

天谷奴零

どっちにしろ、落ち着くあてもねーんだ。 ご提案に乗ってみるとしようぜ。

白膠木簓

ほんなら、実習生は先行してくれ! 後ろは俺らがきっちり守ったる!

実習生

頷き、前に進み出る。 アプリは、別の校舎へ入るルートを 示しているようだ。

実習生

今は、これを信じてみよう……!

――空き教室

天谷奴零

……ふぅ。 どうやら本当に、追手を撒けたみてぇだな。

白膠木簓

マジか。 さすがにびっくりやで……。

実習生

スマートフォンの画面を見ると、 まだマップが映し出されたままだった。

実習生

その中には、移動する光が複数映っている。 どうやら、付近のエネルギー反応も 知らせてくれているようだ。

躑躅森盧笙

これを利用すれば、【ゴースト】のところに たどり着けそうやな。

躑躅森盧笙

あいつを倒せば みんなを連れ戻せるのかもしれんけど。

躑躅森盧笙

ちゃんと説得して、みんなを納得させんと 結局、【MIRA】に戻ってまうやろな……。

実習生

盧笙さんは、【ゴースト】の見せる幻想を 打ち砕くための言葉を探しているのだろう。

実習生

一方で、自分は「【ゴースト】を倒す」ということに ひとつの疑問が浮かぶ。

実習生

今まで、数々の【ゴースト】を倒してきた。 ……だが、本当にそれでよかったのだろうか。

実習生

現状を見るに、 【ゴースト】を倒すだけでは【MIRA】を救うことに 直接繋がっていないように思える。

実習生

もしかしたら、この過程は 間違っているのではないだろうか……。

天谷奴零

どうした、実習生。 何か悩んでるって顔だぜ。

実習生

実は……

――……

躑躅森盧笙

なるほどなぁ。

躑躅森盧笙

確かに、これまで【ゴースト】を倒してきたことは 【MIRA】の救済には繋がっとらんようにも 見えるが……。

白膠木簓

ちゅうても、まだ【ゴースト】は残っとるやろ。 決めつけるんは早いんやないか?

天谷奴零

ふーむ。 それで言えば、ちょいと気にかかることがある。

天谷奴零

【ゴースト】を倒したあと…… あいつらは本当に消えてんのか?

躑躅森盧笙

どういうことや?

天谷奴零

たとえばだが。 キャッシュやバックアップがある可能性はねぇか?

躑躅森盧笙

完全には消えとらんっちゅうことか……!

実習生

確かに、その可能性はある。 もし存在するとして、 それはいったいどこに……。

実習生

そこでひとつ、思い浮かぶ。 【ゴースト】を倒したあとに炎が灯る、 この謎アプリの存在だ。

実習生

その話をしてみると、 零さんが頷いた。

天谷奴零

これは俺の見立てだが…… 連中は元々、別のプログラムなんじゃねぇかと思ってな。

天谷奴零

そこに俺たちの情報を付与し、 【ゴースト】として定義されたものたちが 俺らの戦ってきた相手……俺は、そう仮定してる。

天谷奴零

俺らに倒されることで奴らは初期化され、 元のプログラムに戻り――

躑躅森盧笙

謎アプリに吸収されとる…… そういうことか?

白膠木簓

ありえるんか、そんなこと。

天谷奴零

ありえるかどうかは、 確かめてみねーとわからんさ。

天谷奴零

吸収されてるとして、その先どうなってるかも…… 今は俺の仮説の域だしな。

天谷奴零

とにかく、それを確認するためにも 盧笙の【ゴースト】を倒して アプリの挙動を解析したいところだな。

躑躅森盧笙

やっぱそうなるか。 まだ言いたいことが うまくまとまっとらんのやけど……。

白膠木簓

そうか? いつもの熱血ぶりで ぶつかればええんちゃうか?

白膠木簓

【ゴースト】と話してから、 どうも調子が出とらんみたいやなぁ。

躑躅森盧笙

まあ、あいつの言いたいこともわかるからな。 失敗せずに、夢を叶えた理想の姿……。

躑躅森盧笙

俺も、自分の挫折を受け入れられんかったら ああなっとったかもしれん。

白膠木簓

なんや。 やっぱ決まっとるやないかい。 言いたいこと!

躑躅森盧笙

そうか?

躑躅森盧笙

けど、もしも説得できんかったとしたら……。

白膠木簓

安心せえ! もしうまくいかんでも俺がフォローしたる。

天谷奴零

おいちゃんもついてるぜ。

実習生

自分も、精いっぱいフォローします!

躑躅森盧笙

そうか……せやな。 俺にはお前らがついとるしな。

躑躅森盧笙

よし。やったろうやないか!

――校内放送が流れる。

躑躅森盧笙ゴースト

見つけたで、躑躅森盧笙。 自分の選択を後悔しながら消えるんやな……!

TRACK 5 結果だけが全てやあらへん

白膠木簓

おわ! ついに見つかったんか!?

躑躅森盧笙

いや。居場所がわかっとるなら これまでみたいに、ホログラムで姿を現わすはずや。

天谷奴零

だな。もしかすると、謎アプリが 妨害してくれてんのかもしれねぇ。

天谷奴零

あちらさんの狙いは、今の放送で慌てた俺らが ここから出ていくことだろう。 動けば動くほど、見つかりやすくなるからな。

天谷奴零

というわけで、もう少しここに居座れると思うが…… どうするよ、盧笙?

躑躅森盧笙

……実習生。 そのアプリで、【ゴースト】の居場所は わかりそうか?

実習生

やってみます!

実習生

アプリ上のマップを操作し、 画面を遷移させていく。 その中に、ひときわ強く輝く反応があった。

実習生

屋上だ。 すぐに、盧笙さんたちへルートを伝える。

躑躅森盧笙

でかしたで、実習生。

躑躅森盧笙

よーし、反撃開始や。

躑躅森盧笙

聞こえとるか、【ゴースト】! 今からお前のとこまで乗り込んだるからな。

躑躅森盧笙

俺らの勝負は、うちの生徒に見届けてもらう。 あいつを連れて行くから そこで大人しく待っとれよ!

白膠木簓

くぅ~、楽しなってきたな! やったろうやないか!

天谷奴零

しょうがない、付き合うぜ。 こう縮こまってちゃ、肩がこっちまうからな。

躑躅森盧笙

頼りにしとるで、みんな。

躑躅森盧笙

ここからは、逃げも隠れもせん。 ぶっつけ本番、一発勝負や!

――屋上

躑躅森盧笙ゴースト

逃げずにやってくるとはな。 少しは見直したで。

躑躅森盧笙

そら、ありがたいことやな。

男子生徒

ほんまに、躑躅森先生がふたりおる……。 どっちかが先生のふりをしとるっちゅう ことなんか?

躑躅森盧笙ゴースト

気にせんでええ。 どっちが正しいか…… いま大事なんは、それだけや。

躑躅森盧笙ゴースト

盧笙。お前の負ける姿を見せるんは気が引けるが…… それでこの子は、より強く思うはずや。

躑躅森盧笙ゴースト

「失敗なんかせえへん完成された人間であるべき」 ……ってな。

躑躅森盧笙

「完成された人間」、か。 それが、ほんまにお前のやりたいことなんやな?

Chapter 14
躑躅森盧笙ゴースト

……ああ、そうや! 夢を実現し、理想の自分になった時にこそ 人は完成する。

躑躅森盧笙ゴースト

けど、現実はどないや? 将来の夢を描いても、実現は困難。 不可能なことが多すぎる!

躑躅森盧笙ゴースト

せやから俺は、【MIRA】で 人々の理想を実現させる。 俺の手で、「完成」に導いてやるんや!

躑躅森盧笙

……完成した、その結果だけが 大事やとでも言うんか?

躑躅森盧笙

夢を実現して、理想の自分になることだけが 人生やとでも? 夢を追う過程は、どうでもええんか?

男子生徒

先生……。

躑躅森盧笙ゴースト

はっ。過程なんか無駄や。無駄でしかない。 不可能かもしれへん夢を追う? 途中で挫折して、立ち上がれんかもしれんのに?

躑躅森盧笙ゴースト

ここでなら、挫折も迷いもない。 確実に夢を叶えられるんや!

躑躅森盧笙

……ああ、そうか。 ようわかった。

躑躅森盧笙

お前はやっぱり、 挫折を乗り越えられんかった俺や。 そこから逃げて、何も学ばんかった俺なんや。

躑躅森盧笙ゴースト

やったらどうした? あんな思いは、する必要あらへん! そうやろ!

躑躅森盧笙

……そうかもな。 せんで済むなら、それで良かったんかもな。

躑躅森盧笙

けどな。挫折をしたからこそ、今の俺がある。 だから俺は、お前と同じ道は歩めへん。

躑躅森盧笙ゴースト

まだわからんのか……!

躑躅森盧笙

お前にはずっと、わからんかもな。

躑躅森盧笙

けど。夢を実現して理想の自分になるだけが 人生の正解やない。 正解なんて、どこにもないんや。

躑躅森盧笙

迷って、逃げて、乗り越えて……。 その過程で得た、すべての経験が 人を、未来を創るんや!

躑躅森盧笙

無駄なもんなんか、ひとつもない!

躑躅森盧笙ゴースト

知った口を……!

――盧笙の【ゴースト】、マイクを取り出す。

躑躅森盧笙

実習生、封印解除を!

実習生

承知です!

――マイクの封印を解除する。

躑躅森盧笙

いくで、【ゴースト】。 これが俺の、答えや!

――……

躑躅森盧笙ゴースト

ぐぁ……ッ!!

躑躅森盧笙

勝負あったな……。

躑躅森盧笙ゴースト

くっ。これが、お前の力…… 挫折を乗り越えた、強さっちゅうわけか。

躑躅森盧笙ゴースト

作戦は、失敗した。 俺の夢も、ここで終わりか――

躑躅森盧笙

何を言うとるんや。 失敗したって立ち直れる…… それは、お前にだって言えることやぞ。

躑躅森盧笙ゴースト

…………!

躑躅森盧笙

失敗や挫折を乗り越えて立ち上がった時…… お前は、もっと強いお前になっとる。

躑躅森盧笙

もし自分で立ち直れんかったら、俺が力を貸す。 せやからお前も、これを乗り越えて…… また戻ってきたらええ。そうやろ。

躑躅森盧笙ゴースト

……はっ。 そん時は、俺が勝つかもしれへんぞ?

躑躅森盧笙

受けて立ったるわ。 そん時は俺かて、さらに色々乗り越えて 強くなっとるはずやしな。

躑躅森盧笙ゴースト

ああ…… そん時が、楽しみ、や――

――【ゴースト】が消えていく。

TRACK 6 俺らはまだ道の途中

美容師をしていた女性

だ、誰か来て! さっきまでおったお客さんたちが みんな消えて……。

美容師をしていた女性

……あれ。 なんで私、あの人たちをお客さんやと 思ってたんやろ。そんなわけないのに……。

男子生徒

……そっか。 僕も、思い込んどったんか。

男子生徒

あの人たちが生徒やなかったみたいに、 先生やない人を、先生やと思い込んで……。

躑躅森盧笙

すまんかったな。 せっかく、夢が叶っとったのに。

男子生徒

……いや。 先生のラップバトルを見て、考えが変わったわ。

男子生徒

僕は、数学の知識を教えるだけが 教師やと思ってた。 けど……。

男子生徒

先生は、自分の経験ごと全部 僕にぶつけて、伝えてくれようとした。 ……そう、感じた。

躑躅森盧笙

……そうか。 受けとめて、くれたんやな。

男子生徒

うん。それに、僕が思ってたより 先生も迷ったりするんやって知れて…… ちょっと、勇気が出たわ。

躑躅森盧笙

はは、そらよかった。

躑躅森盧笙

……ええか。 うまくいくことばかりやなくても 逃げたり、迷ったりしてええんや。

躑躅森盧笙

そうしてどこかにたどり着いた時 振り返れば、そこにはお前の歩いてきた道がある。 その道こそが、お前の財産や。

躑躅森盧笙

お前を形づくる、お前自身を誇れ。 先が見えんでも…… 俺らはまだ、道の途中なんやから。

男子生徒

うん。諦めんと頑張るわ。 先生に、それを教えてもらったから。

躑躅森盧笙

そう、か……。 ちゃんと伝わったなら、俺は……っ。

男子生徒

先生?

躑躅森盧笙

い、いや。 ちょっと安心しただけや!

Chapter 14
躑躅森盧笙

よし、まだまだ教えられることは ガンガン教えていくからな。 覚悟せえよ!

――……

実習生

こうして、VRオオサカでの一件は終わった。

実習生

ほかの未帰還者たちも、納得して帰路についた。 校内放送で流れていた盧笙さんのラップバトルと、 生徒さんとのやりとりに励まされたらしい。

実習生

だが、自分たちにはもうひとつ 確かめることがあった――。

天谷奴零

謎アプリの解析は成功だ。

白膠木簓

おお、ちゅーことは……!?

天谷奴零

アプリの正体がわかった。 聞いて驚け。

天谷奴零

あのアプリはな。 【MIRA】の創設者……神来社織の人工知能。 神来社の人格と知識を元に作られたAIだ。

躑躅森盧笙

な……! そんな、とんでもないもんやったんか。

実習生

神来社さんのAI……

天谷奴零

ああ。元々、神来社AIは 【MIRA】の統治AIである【QUEENS】の バックアップだったみてぇだな。

天谷奴零

中王区の干渉を受ける前に作成されてたようだ。 本来なら、不測の事態には そのバックアップを使うはずだったが――

天谷奴零

統治AIは、中王区の干渉に抵抗した時に 別の自意識に目覚めてアップデートを行った。 それで神来社AIを放棄したんだろう。

白膠木簓

待て待て。 それがなんで、実習生のスマホに?

天谷奴零

はっきりしたことはわからねぇが…… 統治AIに拒否されたことは、 神来社AIにとっても緊急事態だったはずだ。

天谷奴零

だからとっさに頼ったんじゃねぇか? 秘蔵っ子である、実習生をよ。

躑躅森盧笙

実習生になら託せると 判断したっちゅーわけか。

実習生

AIの神来社さんが、とっさに自分を頼った―― そのことが少し嬉しくもあり、 同時に、大きな責任も感じる。

実習生

自分は、神来社さんが遺した意思と力を 守る立場にあるのだ。

天谷奴零

ああ。で、ここからが本題だ。 盧笙の【ゴースト】を倒した前後の データを解析したんだが……。

天谷奴零

やっぱり【ゴースト】は、 統治AIの欠片――プログラムに 俺らMCのデータを被せたものみたいでな。

天谷奴零

つまり、【ゴースト】を倒して欠片を集めることで 謎アプリは統治AIの力を奪い…… 自分のものにしているってことだ。

白膠木簓

自分のものに……って、おいおいおい。 炎が灯っとるんはそういうことかい!

躑躅森盧笙

そらえらい話やな……。

天谷奴零

ホントにな。 実習生は、あんまり驚いてねぇみたいだが。

実習生

充分、驚いてます

白膠木簓

そうなんか? もっと顔に出した方がええで。 もしくは叫ぶとかな!

実習生

簓さんの言葉で、少し肩の力が抜ける。 神来社さんに関わる事実が明らかになり、 自分はつい緊張してしまっていたようだ。

実習生

あの人なら、何がなんでも 自分の創った世界を守ろうとするに違いない……

実習生

謎アプリに神来社さんの意思が 関わっているのなら、これまでの挙動も頷ける。

天谷奴零

どうするよ、実習生。 神来社がお前を頼った以上は お前に判断を任せるべきだと、俺は思うが。

実習生

あの人が頼ってくれたなら、応えたいです

実習生

それが自分の正直な気持ちだ。 もちろん、この選択は 今後の【MIRA】に大きな影響を与えるはずだ。

実習生

だが、先ほどの話から 今思いつく可能性はひとつ。

実習生

謎アプリは、現在暴走している統治AI 【QUEENS】から力と主導権を奪い 【MIRA】を修復しようとしている――

実習生

ならば引き続き【ゴースト】を倒し アプリに力を蓄えることが 【MIRA】を救うカギとなるかもしれない。

実習生

AIの神来社さんが成そうとすることのために 自分は引き続き【ゴースト】と対峙していく。 ……そう、決意を伝えた。

天谷奴零

わかった。 今予想できる範囲では、俺も賛成だ。

白膠木簓

けど、危なくなったら俺らを頼るんやで。 遠慮なくな!

躑躅森盧笙

ああ。いつでも呼び出してくれ。 俺らがついとるからな!

実習生

ありがとうございます!

実習生

盧笙さんたちに頷いて、 スマートフォンを見つめる。

実習生

画面には、倒した【ゴースト】の数だけ 炎が灯っている。

実習生

残る【ゴースト】は、あと4体。 すべての【ゴースト】を倒したとき このAIはどんな変化を遂げているのだろうか。

実習生

【MIRA】を救う。 まだ見ぬ未来を夢見て、 拳を握りしめた。

Chapter 14 END