ヒプノシスマイク-Dream Rap Battle-

Chapter 15 マジで強くなりてぇなら

TRACK 1 ブクロの番犬の出番

――萬屋ヤマダ 事務所

――三郎がパソコンで作業をしている。

山田二郎

よぉ、 【MIRA】のほうはどうだ? なんか変わったことはねーか?

山田三郎

相変わらずだよ。 っていうかなにしに来たんだよ。 僕の邪魔をするつもりか?

山田二郎

邪魔なんてしねーよ! 俺の【ゴースト】が暴れてねーか気になったんだよ。

山田三郎

実習生と連絡を取り合ってるけど、 特に報告はないな。

山田二郎

……そうかよ。

山田一郎

どうしたんだ、二郎。 なんか引っかかることでもあるのか?

山田二郎

なんで、俺の【ゴースト】は顔を出さねーんだろ って思ってさ。 どっかに隠れてんのかな。

山田二郎

でも、そんなの俺らしくねーしな。 一体、なにやってんだ……?

山田三郎

【ゴースト】の性格がオリジナルと同じとは限らない。 何度も会ってるのに、 まだそんなこともわからないのか?

山田二郎

……そう言えばそうか。 でも、俺たちから作られたってのに、変な話だよな。

山田一郎

同じデータを持ってたとしても、 目的が違えば信念も変わる。 違う環境にいれば、性格だって変わるんじゃねぇか?

山田三郎

一兄の言う通りだ。 あっちは根本に【MIRA】があるしな。 同じ姿の別人だと思ったほうがいい。

山田二郎

俺と同じ姿で、俺とは違うやつか……。 うーん、しっくり来ねーなぁ。

山田一郎

まあ、他人の【ゴースト】と自分の【ゴースト】、 それぞれ対面した時の感じかたは違うからな。 二郎がしっくり来ないのも無理はねぇ。

山田三郎

……そう……ですね。 オリジナルと同じバカならやりやすいんですけど、 【ゴースト】が正反対だったらやり辛いですね。

山田二郎

さらっと俺をバカにすんじゃねー! 正反対っつーと、 影に隠れがちで、スポーツが苦手なやつって感じか?

山田三郎

慎重で賢いやつってことだ。 後先考えずに飛び出すお前とは違ってな。

山田二郎

お、俺だって俺なりに考えてるっつーの!

山田三郎

それでも考えるより先に飛び出すなんて、 脊髄反射もいいところだ。

山田一郎

やめねぇか、ふたりとも。

山田一郎

【ゴースト】と俺らの目的が相反している以上、 必ずぶつかる時がくる。 その時に全力を出せるように準備しとこうぜ。

山田三郎

一兄……。 そうですね。

山田二郎

もちろんだぜ、兄貴!

――パソコンの通知音が鳴る。

山田二郎

なんだ?

山田三郎

マークしていたハッカー集団に動きがあったんだ! ……あいつら、【MIRA】にログインしてる。 なにをするつもりだ?

山田二郎

ハッカーがログインしたってことは、 【MIRA】で犯罪が起きそうってことだろ! 俺らもログインして、とっちめてやろうぜ!

山田三郎

ハッカー以外と遭遇するかもしれないし、 僕たちだけでログインするのは危険だ。 それに、アジトは特定できた。

山田一郎

それなら、先に現実世界にいる奴らの身体を 押さえたほうがいいかもしれないな。 実習生に連絡しよう。

山田二郎

よし! 早くアジトに乗り込もうぜ! ブクロの番犬の本領発揮だ!

TRACK 2 もうひとりの俺を追え

――ハッカーのアジトの前

実習生

【MIRA】のモニタリングをしていたら、 新たにログインしたアカウントを見つけた。 そのタイミングで、一郎さんから連絡が来た。

山田一郎

突然呼び出してわりーな。 【MIRA】に関することだから、 あんたがいてくれると助かると思ってよ。

実習生

足を引っ張らないようにします!

山田二郎

細かいことは気にすんな! ガンガン暴れてやろうぜ!

山田三郎

実習生は、後先考えないお前と違うんだ。 荒事になりそうだったら後ろに下がらせるぞ。

山田一郎

実習生がいてくれると頼もしいぜ。 【MIRA】のことはあんたのほうが詳しいからな。 だが、危なくなったら俺たちに任せてくれ。

実習生

自分は一郎さんに頷いた。 一郎さんたちは顔を見合わせると、 ハッカーのアジトの扉を開いた。

山田一郎

邪魔するぜ! お前たちが巷を騒がせているハッカー集団だな!

山田二郎

って、あれ……?

山田三郎

様子がおかしいぞ……!

実習生

ハッカーたちは、みんな横たわっている。 【MIRA】にログインしているので、 それ自体はおかしなことではないが……。

ハッカーA

うう……うぁ……。

山田二郎

おい、どうしたってんだよ! 呻き声しかあげねぇ……!

実習生

オープニングセレモニーの時と同じ……

山田一郎

たしか、開発会社の社員が、 【MIRA】の中でマイクの攻撃を受けてたよな。

山田三郎

その時と同じってことは、 こいつらは【MIRA】でマイク攻撃が できるやつと接触したってことか……!

ハッカーB

くそっ……! なんだってんだ!

山田二郎

うおっ! びっくりした。 こっちはまだ元気だな……?

山田一郎

まだ攻撃を受けていないんだな。 逃げてる最中ってとこか。

山田三郎

実習生、 こいつの所在地、座標は絞れそうか?

実習生

おおよそ絞れました!

山田二郎

仕事がはえーな! そいつのところに行けば、 なにがあったかわかるってことか。

山田三郎

二郎にしては冴えてるじゃないか。 逃走中だとしたらずれる可能性はあるけど、 現場の近くに行けるはず。

ハッカーB

舐めやがって……この番犬野郎が……!

一郎/二郎/三郎

!?

山田一郎

番犬ってことは……。 もしかしたら、こいつらと接触したのは――

山田二郎

俺の【ゴースト】か……!?

山田一郎

二郎の【ゴースト】もやる気満々みてぇだな。 早いところ行かねぇと、こいつもやられちまう。

山田二郎

犯罪者だからって、 どんな目に遭ってもいいわけじゃねーしな。

山田一郎

まともな状態で警察に突き出して、 しかるべき手段で裁かれるべきだ。 ハッカーたちを保護するためにも、行くぞ!

山田三郎

その前に、こいつの身体は拘束しておいた方が いいですね。 ログアウトした後に逃げられたら困りますし。

実習生

三郎さんはハッカーの身体を椅子に縛り付け、 無事にログアウトできても すぐに逃げられないようにした。

山田三郎

これでよし……と。

山田一郎

準備はいいな。 実習生、頼んだぞ。

実習生

はい!

山田二郎

俺の【ゴースト】か……。 一体、どんなやつなんだ……?

実習生

どんな【ゴースト】か、自分も気になるところだ。 なにがあってもいいように気を引き締めながら、 みなさんと【MIRA】へログインした。

TRACK 3 萬屋ヤマダジロウ

――VRイケブクロ 西口公園

山田二郎

ハッカーの姿は……見当たらないみたいだな。

山田三郎

実習生が確認した時点での座標だしね。 やっぱり、 【ゴースト】から逃げている途中だったんだな。

山田一郎

だが、この近くにはいるはずだ。 【ゴースト】もな。 ……捜すぞ!

二郎/三郎

ああ!/はい!

実習生

因みに、ハッカー集団はどんな犯罪を?

山田一郎

主に個人情報を抜き取って、 裏でその名簿を高額で売ってたんだ。 三郎がずっと追ってたんだが……。

山田二郎

じーちゃん、ばーちゃんに詐欺の電話をかける組織に 名簿を流してたんだぜ! 許せねぇよな!

山田三郎

他にも余罪がたっぷりだったんだ。 百害あって一利なしの連中だよ。 【MIRA】に入って、なにをやろうとしてたんだか。

山田二郎

ぜってー悪いことしようとしてたんだろ! 早く捕まえて警察に突き出そうぜ!

実習生

【MIRA】へは一方通行ですよね?

山田二郎

あ、そうか。 普通に入っても出れねーんだ。 あいつら、出る方法を知ってたのか?

山田一郎

ログインしているのは実行役かもしれないな。 指示役に「帰る方法はある」とそそのかされて、 帰る手段もないのに入ってる可能性もあるな。

山田三郎

未帰還者の個人情報が狙いでしょうね。 外から抜こうとしてもできなかったから、 内側から収集するつもりなのかもしれません。

山田二郎

実行役ってことは、下っ端だよな。 つーことは、 そいつらだけ捕まえても意味ねえってこと……か?

山田三郎

意味ないことはないけど、 指示役やその大元を捕まえる必要がある。 そこは、僕が連中の端末から解析してみるさ。

山田二郎

じゃあ、警察が来るまでの間、 連中が暴れて逃げないよう、押さえつけておくぜ!

山田三郎

脳筋はそうしてくれると助かるな。

山田二郎

脳筋は余計だ!

山田一郎

一網打尽とはいかねぇのが歯痒いが、 そうやって少しずつ追い詰めるしかねぇな。 一歩一歩、確実に行くぜ!

二郎/三郎

ああ!/はい!

実習生

【Buster Bros!!!】のみなさんは 連携が取れていてすごい。 こうやってイケブクロの治安を守っているのか。

山田一郎

まずは、ログインしたハッカーを無事に保護することだ。 どこかに手がかりがあればいいんだが。

山田二郎

追ってるのは、俺の【ゴースト】なんだよな。 だとしたら拠点は、 【萬屋ヤマダ】の事務所か……?

山田一郎

そうだな……。 見たところ【ゴースト】の姿もねぇし、 一度、うちの事務所に行ってみるか。

山田三郎

そうですね。 道に迷った二郎の【ゴースト】が戻ってきてるかも しれないですし。

山田二郎

俺は迷い猫じゃねー!

――……

――VR萬屋ヤマダの前

実習生

みなさんとともに、 【萬屋ヤマダ】の事務所にやってきたのだが、 事務所には違和感が……。

山田二郎

ど、どういうことだ!?

山田三郎

僕たちの事務所が…… 二郎の名前になってる……だって……?

――【萬屋ヤマダ】の文字が【萬屋ヤマダジロウ】になっている。

山田一郎

そうか……。 二郎の【ゴースト】はひとりで事務所をやってんのか。 俺と三郎の【ゴースト】がいないから……。

山田三郎

バカが所長の事務所なんて……。 一体なにができるっていうんだ……。

山田二郎

いや、まだわかんねーし! 俺の【ゴースト】は頭がいいかもしんねーだろ!

山田三郎

【ゴースト】で張り合うな! 仮にそうだとしても、お前とは別人だからな!

山田二郎

もし頭が良かったとしても……わかんねーな。 俺がひとりで事務所をやる姿は想像できねー。

山田一郎

事務所の前に人がいるな。 ……未帰還者か? 話を聞いてみるぞ。

女性

あっ、山田二郎さん!

山田二郎

えっ、俺?

女性

さっきは助かりました! 怖い人に暗証番号を教えろと脅迫された時…… 本当にどうなるかと……!

山田三郎

もしかして……

山田一郎

【ゴースト】か……!

山田二郎

それは俺と同じ姿だけど別人で……。 あっ、そうだ! どこで会いました?

女性

向こうの裏路地で助けてくれましたよね……? 怖い人を追いかけていったから、 捕まえてくれたのかと思って……。

実習生

女性には事情を伝え、現実に帰還させた。 二郎さんが聞いてくれたお陰で、 【ゴースト】の足取りが掴めたが……。

山田二郎

大体の位置はわかった! ハッカーが追い付かれないうちに行こうぜ!

一郎/三郎

そうだな!/ああ!

――……

――VRイケブクロ 路地裏

山田一郎

ブクロのあちこちがぶっ壊されてるな。 看板もひっくり返ってるし、標識も折れてる。 これも、【ゴースト】がやったのか……?

山田三郎

隠れたり逃げたりしてるハッカーを追い詰めるために、 後先考えずに破壊しまくったんでしょうね……。

山田二郎

これは俺でもわかる。 やりすぎだ……。

実習生

二郎さんの【ゴースト】の破壊の痕跡は続く。 人間まで壊される前に、ハッカーを確保しなくては……!

TRACK 4 【MIRA】を守るために

――VRイケブクロ 西口公園

実習生

破壊の痕跡を辿って公園までやってきた。 二郎さんの【ゴースト】はいるだろうか。

???

オラァ! ようやく追い詰めたぜ!

山田二郎

この声は……!

Chapter 15
山田二郎ゴースト

俺のブクロでウロチョロしやがって! 目ざわりなんだよ、クソハッカー!

ハッカーB

うう……、くそっ……!

山田二郎ゴースト

まだ抵抗する気力があるとはな。 二度と悪さができないように、 再起不能にしてやるぜ!

山田一郎

あいつ、マイクを使う気だ!

山田三郎

このままだと、 あのハッカーも精神を壊されるぞ……!

山田二郎

やめろ!!

山田二郎ゴースト

お前は、俺のオリジナル……?

山田二郎

ここまでしなくても、勝負は見えてるだろ!

山田二郎ゴースト

いいや、まだだ! 【MIRA】のトラブルは徹底的にぶっ潰す!

――二郎、ハッカーBを庇う。

山田二郎ゴースト

俺の邪魔をする気か? そこをどけ!

山田二郎

だから、やりすぎだって言ってんだ! いくらなんでも、一方的にボコすことはねーだろ!

山田一郎

なあ、 お前が【MIRA】を大切に思う気持ちはわかる。 一度、落ち着いて話さねぇか?

山田二郎ゴースト

なんだと?

山田一郎

お前の【MIRA】が俺たちにとってのブクロなんだろ? だからトラブルを憎んで攻撃する。 違うか?

山田二郎ゴースト

違わねーよ。 だからって、口出しすんな!

山田三郎

やれやれ。 お前だって、大した知能は持ち合わせていないんだ。 ひとりで、なんでもできるわけないだろ?

山田三郎

だから抱え込むなよ。 そこのハッカーは現実から来たトラブルなわけだし、 あとはこっちがどうにかするからさ。

山田二郎ゴースト

敵のお前らが指図すんじゃねぇ! お前らの手なんて借りるもんか! 返り討ちにしてやる!

山田一郎

おい、俺たちは……!

山田二郎ゴースト

危険ナントカを連れてきやがって。 俺を排除するつもりなんだろうが!

山田二郎

危険……ナントカ? そんなのはいねーよ!

山田三郎

実習生が、 「危険因子」と呼ばれていたような気がするけど……。

実習生

きっと自分のことだと思います……!

山田二郎ゴースト

その危険ナントカを連れて、 ぞろぞろ俺の前に出てきやがって! 【MIRA】をぶっ壊すつもりなら、容赦しねぇ!

実習生

自分は【MIRA】を元に戻したいだけです!

山田二郎

そうだ! こいつは【MIRA】を大事に思ってるやつだ! ぶっ壊そうなんて思ってねぇ!

山田二郎

こいつからは本気で 【MIRA】を守りたいっつー気持ちが伝わってくる。 その気持ちは、お前と同じはずだ!

実習生

二郎さん……!

山田二郎

お前は、危ない場所でも怖がらずに踏み込めるんだ。 本気じゃねーなんて思うやつはいねーよ。

山田二郎ゴースト

違う!

山田二郎

なんだと?

山田二郎ゴースト

そいつの守りたい【MIRA】と、 俺が守りたい【MIRA】は違う!

山田三郎

まあ、そうだろうな……。 本来の【MIRA】とバグった後の【MIRA】。 そこに決定的な壁があるんだろう。

山田一郎

それでも、ひとつの場所には変わりねぇ。 お互いに歩み寄ることはできないのか?

山田二郎ゴースト

ひとつの場所だからこそ、奪い合わなきゃなんねぇ! 目指してるモンは違うはずだ!

山田一郎

そうか……。 ぶつかり合うしか……ないのか。

山田二郎ゴースト

俺は誰の指図も受けない! 俺が【MIRA】のみんなを守るし、 邪魔者は全員ぶっ潰す!

山田二郎ゴースト

俺ひとりで全部やってみせるんだ! 消されたやつらの分もな!

山田二郎

バカ野郎!

山田二郎ゴースト

バカ……だと!?

Chapter 15
山田二郎

なんでもひとりでできるなんて、思い上がりだ! 後先考えずに、散々暴れ回りやがって! ブクロのあちこちがボコボコじゃねーか!

山田二郎ゴースト

くっ……! それは、ハッカーを追い詰めるために仕方なく……!

山田二郎

でも、他に方法があったはずだ! お前だってブクロをボコボコになんて したくなかったはずだ!

山田二郎ゴースト

だけど……俺は……!

山田二郎

ひとりで抱え込むなっつってんだよ! 色んなやつと話し合って、 足りねぇところを助け合うのが大事なんだ!

山田一郎

……そうだな。 よく言った、二郎。

山田三郎

僕も、二郎がどうしてもって言うなら 手を貸すくらいするさ。

山田二郎ゴースト

それは……

ハッカーB

ぐっ……。 今のうちに……逃げるしか……。

山田二郎

あっ、おい!

山田二郎ゴースト

逃がすか!

――二郎の【ゴースト】、ハッカーBに向けてマイクを構える。

山田二郎

やめろ!

――ハッカーBを庇う二郎。

山田二郎

ぐあああっ!

一郎/三郎

二郎!

実習生

二郎さん!

実習生

二郎さんはハッカーを庇って 【ゴースト】の攻撃をまともに受けてしまった。 大丈夫だろうか……!?

TRACK 5 お前もひとりじゃない

山田二郎

くっ……!

山田一郎

大丈夫か、二郎!

山田三郎

無茶するな! これだから低能は!

山田二郎

お……俺は平気だ!! それよりも……!

山田一郎

ああ! ハッカーは捕まえたぜ!

ハッカーB

くそっ……!

実習生

ハッカーは任せてください!

山田二郎

ああ、頼んだぜ! 俺たちは、あいつと決着をつけなきゃならねぇ!

山田二郎ゴースト

なんでだ……。 なんでそこまでして、そいつを庇うんだ! 個人情報を抜き取るために、住民を脅してたやつだぞ!

山田二郎

そういう卑劣な連中が許せねぇって気持ちはわかる。 でも、お前がやりすぎだってのもわかる!

山田二郎

同じ気持ちがあれば手を取り合えるはずだ! お前はひとりじゃない! 俺たちがいる!

山田一郎

そうだ。 譲り合えないところもあるだろうが、 協力し合えることもあるはずだ!

山田三郎

ひとりで突っ走っても行き詰まるだけだぞ。 一兄と僕がいれば、 お前の足りないところくらい補えるさ。

山田二郎ゴースト

ゴチャゴチャうるせぇ! 他人の手を借りるのは、弱いやつのやることだ!

――二郎の【ゴースト】、マイクを構える。

山田二郎

聞く耳持たねぇってか! 仕方ねぇ!

実習生

二郎さんの【ゴースト】が臨戦態勢になると、 盛り上がりの気配を感じてか 電脳ラッパーが集まってきた!

電脳ラッパー

YO! YO! 盛り上げてやるぜ!

山田二郎ゴースト

クソが……! 俺の戦いなんだから、いらねぇっての!

山田一郎

二郎、集まってきた奴らは俺らに任せろ。 お前は【ゴースト】を頼む!

山田二郎

わかったぜ、兄貴! そっちは頼んだ!

山田三郎

お前が【ゴースト】に専念できるように 雑魚は蹴散らしてやる。 感謝しろよ、二郎。

山田二郎

生意気言いやがって……。 けどよ、頼もしいぜ!

山田二郎

実習生、ぶちかましてくれ!

実習生

ぶちかまします!

――マイクの封印を解除する。

山田二郎

行くぜ、オラァ!

山田二郎ゴースト

返り討ちにしてやるぜ!

――……

山田二郎ゴースト

ぐああああっ!

山田二郎

どうだ! これが3人の……いや、4人の力だ!

山田二郎ゴースト

まだだ……! 俺は……まだやれる……!

山田二郎

無理すんな。 お前は、もう……。

山田二郎ゴースト

認めねぇ……! 俺ひとりじゃ、なにもできないなんて……!

山田一郎

なにもできなかったわけじゃない。 お前は、ハッカーに襲われていた人を助けただろ?

山田三郎

そうだぞ。 その人はお前にお礼を言うために事務所に来てたんだ。 自分がやったことを誇れよ。

山田二郎ゴースト

けど……!

山田二郎

だーーーっ!

山田二郎

テメーは【MIRA】を守りたかったのか、 ひとりで、なんでもできるようになりたかったのか、 どっちなんだよ!

山田二郎ゴースト

……【MIRA】を、守りたかった。 だから、【MIRA】に住んでる人を守りたかったんだ。

山田一郎

未帰還者は住んでるっていうよりも帰れないんだが、 こいつらにとっては住民っていう位置づけなのか……。

山田二郎

【MIRA】を守りたいなら、そこにいる連中を 守ることを優先すりゃよかったじゃねーか! ひとりでやることに、こだわらずによ!

山田二郎

目標がふたつあったら、 考えることが多くて大変だろうが! 俺がそうだしな!!

山田三郎

自分の頭の悪さをよく認めたな。 褒めてやるよ。

山田二郎ゴースト

俺は、ひとりで抱えきれないものを 抱えようとしていたのか……?

山田二郎

そーだ。 ひとりでできることには、限度がある。 でも、やりたいことはいっぱいある。

山田二郎

そういう時に、誰かの力を借りるんだ。 誰かの力を借りるのは、弱さじゃない。 お互いさまってやつだ。

山田二郎ゴースト

お互い……さま……?

山田二郎

そう。そいつが困ってる時に、自分の力を貸す。 それが、絆ってやつだ。

山田二郎ゴースト

力を借りる代わりに、力を貸す……。 それは、弱いやつのすることじゃない気がする。 絆ってのは、そういうことだったのか……。

山田二郎ゴースト

俺も誰かの力を借りてたら、 ブクロのあちこちを壊すこともなかったかも しれねぇな……。

山田二郎

やっちまったものは仕方ねぇよ……。 けど、中途半端になってるやつはどうにかしないとな。

山田二郎ゴースト

そうだな……。 これ以上、 ハッカーが【MIRA】を荒らさないように……。

山田二郎

安心しろ! ハッカー野郎は俺たちが責任もってどうにかする。 あとは現実で引き継ぐぜ!

山田二郎ゴースト

悪いな……。 あんだけ啖呵切ったのに、 任せっぱなしとか情けないぜ……。

山田二郎

忘れたのか? お前はハッカーに襲われてた人を助けたんだ。 任せっぱなしなんかじゃねぇよ!

山田一郎

そうだな。 困っている人を助けてくれたのは、 同じブクロの仲間として誇らしいぜ。

山田三郎

その場所を守りたいって気持ちは、 仮想だろうが現実だろうが関係ない。 バカなりによくやったんじゃないか?

山田二郎ゴースト

……あたたかくて、心地いいな。 これが、絆ってやつか……。 もう少し早く出会えてたら、ダチになれたかもな……。

山田二郎

馬鹿野郎……。 俺たちは、とっくにダチだぜ……。

実習生

【ゴースト】が消えてしばらくの間、 二郎さんはその場から動こうとしなかった。 自分はただ、それを見守ることしかできなかった。

TRACK 6 みんな俺のダチだ

――萬屋ヤマダ 事務所

実習生

【MIRA】からログアウトした後、 ハッカーたちを警察に引き渡した。 彼らは余罪もあるし、しかるべき対応をされるだろう。

山田二郎

指示役の居場所も突き止めて とっ捕まえたし、これで一段落だな。

山田三郎

端末の履歴から指示役の居場所を突き止めたのは 僕なんだ。 存分に感謝するんだな。

山田二郎

指示役が逃げようとしてんのを、 体を張って止めたのは俺だろうが! 俺のほうが活躍したっての!

山田一郎

まあまあ、ふたりともよくやったな。 みんなで協力したから犯人を捕まえられたんだ。

実習生

みなさんのお陰で、 【MIRA】を利用した犯罪を阻止できた。 自分も感謝の気持ちを伝えた。

山田二郎

気にすんなって! これもお互いさまってやつだ! それに、俺たちはダチなんだからよ。

実習生

友だちだなんて嬉しいです!

山田二郎

おっ、マジか! そんなに喜んでもらえるなんて、こっちも嬉しいぜ!

山田三郎

あんまり二郎となれ合わない方がいいぞ。 バカがうつるかもしれないしな。

山田二郎

うつらねーっての! いや、実習生と一緒にいれば、 頭がいいのがうつる……か?

山田三郎

そんなわけあるか、バカ。

山田一郎

はははっ。 一緒にいれば影響を受けることもある。 それでお互いを高め合えばいいじゃねぇか。

山田二郎

それがダチの強みだもんな! ……俺は、あいつのダチとしてうまくやれたかな。

山田二郎

俺の【ゴースト】がなかなか表に出なかったのは、 【MIRA】の中で 人助けをしてたからだったんだろうし……。

山田一郎

俺たちは【MIRA】の犯罪を阻止した。 あいつのやりたかったこと、 充分に引き継げたと思うぜ。

山田三郎

そうですね。 少なくとも、未帰還者に手を出す連中は 排除できましたし。

山田二郎

そっか! でも、ああいうやつらは他にもいるかもしれねーし、 注意しとかねーとな。

山田三郎

へぇ、二郎にしては先を見通せているじゃないか。 僕のほうでも、引き続き注視しておくよ。

山田一郎

俺も気にしておくぜ。 現実だろうと仮想だろうと、 人を守るのは大事なことだからな。

実習生

自分も、なにかあったら相談するかもしれません

山田二郎

ああ、頼むぜ! 今回みたいに連携できるかもしれないしな!

――実習生のスマホの通知音が鳴る。

実習生

あれ?

山田二郎

今の音、アプリの通知音か?

実習生

謎アプリの通知音だ。 スマホを取り出して謎アプリを開いてみるが、 特に変化は見られない。

山田三郎

誤作動か? 【ゴースト】を倒した後の動きは、 いつもと変わらなかったのか?

実習生

想像通り、二郎さんの【ゴースト】の分の 炎が灯っている。 それ以外に変わったことはなかったと伝えた。

山田一郎

今まで誤作動なんてなかったんだろ? 気になるところだな……。

山田二郎

もしかして、 アプリがなにか伝えようとしてるんじゃねーか?

山田三郎

アプリが意志を持っているというよりも、 搭載されているAIが 動き出したのかもしれないな……。

山田一郎

炎も集まってるし、 それに伴って力が蓄積されている……とかか? 俺も詳しいことはわからねぇが。

実習生

何かを伝えたがっている……ような気はします

山田一郎

そっか。 あんたがそう言うなら、そうなのかもしれないな。

山田三郎

怪しい動きをしたら、すぐに教えろよ。 そいつの目的はまだ確定してないんだから。

山田二郎

けどよ、助けてくれたこともあるみてーだし、 そいつともダチみたいになれるといいな!

実習生

そうですね……!

実習生

謎アプリの中に神来社さんのAIがいるのなら、 こちらに何かを訴えようとしているのだろうか。 【ゴースト】を倒していけば、それもわかる気がする。

Chapter 15 END