

――萬屋ヤマダ 事務所
――三郎がパソコンで作業をしている。
よぉ、 【MIRA】のほうはどうだ? なんか変わったことはねーか?
相変わらずだよ。 っていうかなにしに来たんだよ。 僕の邪魔をするつもりか?
邪魔なんてしねーよ! 俺の【ゴースト】が暴れてねーか気になったんだよ。
実習生と連絡を取り合ってるけど、 特に報告はないな。
……そうかよ。
どうしたんだ、二郎。 なんか引っかかることでもあるのか?
なんで、俺の【ゴースト】は顔を出さねーんだろ って思ってさ。 どっかに隠れてんのかな。
でも、そんなの俺らしくねーしな。 一体、なにやってんだ……?
【ゴースト】の性格がオリジナルと同じとは限らない。 何度も会ってるのに、 まだそんなこともわからないのか?
……そう言えばそうか。 でも、俺たちから作られたってのに、変な話だよな。
同じデータを持ってたとしても、 目的が違えば信念も変わる。 違う環境にいれば、性格だって変わるんじゃねぇか?
一兄の言う通りだ。 あっちは根本に【MIRA】があるしな。 同じ姿の別人だと思ったほうがいい。
俺と同じ姿で、俺とは違うやつか……。 うーん、しっくり来ねーなぁ。
まあ、他人の【ゴースト】と自分の【ゴースト】、 それぞれ対面した時の感じかたは違うからな。 二郎がしっくり来ないのも無理はねぇ。
……そう……ですね。 オリジナルと同じバカならやりやすいんですけど、 【ゴースト】が正反対だったらやり辛いですね。
さらっと俺をバカにすんじゃねー! 正反対っつーと、 影に隠れがちで、スポーツが苦手なやつって感じか?
慎重で賢いやつってことだ。 後先考えずに飛び出すお前とは違ってな。
お、俺だって俺なりに考えてるっつーの!
それでも考えるより先に飛び出すなんて、 脊髄反射もいいところだ。
やめねぇか、ふたりとも。
【ゴースト】と俺らの目的が相反している以上、 必ずぶつかる時がくる。 その時に全力を出せるように準備しとこうぜ。
一兄……。 そうですね。
もちろんだぜ、兄貴!
――パソコンの通知音が鳴る。
なんだ?
マークしていたハッカー集団に動きがあったんだ! ……あいつら、【MIRA】にログインしてる。 なにをするつもりだ?
ハッカーがログインしたってことは、 【MIRA】で犯罪が起きそうってことだろ! 俺らもログインして、とっちめてやろうぜ!
ハッカー以外と遭遇するかもしれないし、 僕たちだけでログインするのは危険だ。 それに、アジトは特定できた。
それなら、先に現実世界にいる奴らの身体を 押さえたほうがいいかもしれないな。 実習生に連絡しよう。
よし! 早くアジトに乗り込もうぜ! ブクロの番犬の本領発揮だ!
――ハッカーのアジトの前
【MIRA】のモニタリングをしていたら、 新たにログインしたアカウントを見つけた。 そのタイミングで、一郎さんから連絡が来た。
突然呼び出してわりーな。 【MIRA】に関することだから、 あんたがいてくれると助かると思ってよ。
足を引っ張らないようにします!
細かいことは気にすんな! ガンガン暴れてやろうぜ!
実習生は、後先考えないお前と違うんだ。 荒事になりそうだったら後ろに下がらせるぞ。
実習生がいてくれると頼もしいぜ。 【MIRA】のことはあんたのほうが詳しいからな。 だが、危なくなったら俺たちに任せてくれ。
自分は一郎さんに頷いた。 一郎さんたちは顔を見合わせると、 ハッカーのアジトの扉を開いた。
邪魔するぜ! お前たちが巷を騒がせているハッカー集団だな!
って、あれ……?
様子がおかしいぞ……!
ハッカーたちは、みんな横たわっている。 【MIRA】にログインしているので、 それ自体はおかしなことではないが……。
うう……うぁ……。
おい、どうしたってんだよ! 呻き声しかあげねぇ……!
オープニングセレモニーの時と同じ……
たしか、開発会社の社員が、 【MIRA】の中でマイクの攻撃を受けてたよな。
その時と同じってことは、 こいつらは【MIRA】でマイク攻撃が できるやつと接触したってことか……!
くそっ……! なんだってんだ!
うおっ! びっくりした。 こっちはまだ元気だな……?
まだ攻撃を受けていないんだな。 逃げてる最中ってとこか。
実習生、 こいつの所在地、座標は絞れそうか?
おおよそ絞れました!
仕事がはえーな! そいつのところに行けば、 なにがあったかわかるってことか。
二郎にしては冴えてるじゃないか。 逃走中だとしたらずれる可能性はあるけど、 現場の近くに行けるはず。
舐めやがって……この番犬野郎が……!
!?
番犬ってことは……。 もしかしたら、こいつらと接触したのは――
俺の【ゴースト】か……!?
二郎の【ゴースト】もやる気満々みてぇだな。 早いところ行かねぇと、こいつもやられちまう。
犯罪者だからって、 どんな目に遭ってもいいわけじゃねーしな。
まともな状態で警察に突き出して、 しかるべき手段で裁かれるべきだ。 ハッカーたちを保護するためにも、行くぞ!
その前に、こいつの身体は拘束しておいた方が いいですね。 ログアウトした後に逃げられたら困りますし。
三郎さんはハッカーの身体を椅子に縛り付け、 無事にログアウトできても すぐに逃げられないようにした。
これでよし……と。
準備はいいな。 実習生、頼んだぞ。
はい!
俺の【ゴースト】か……。 一体、どんなやつなんだ……?
どんな【ゴースト】か、自分も気になるところだ。 なにがあってもいいように気を引き締めながら、 みなさんと【MIRA】へログインした。
――VRイケブクロ 西口公園
ハッカーの姿は……見当たらないみたいだな。
実習生が確認した時点での座標だしね。 やっぱり、 【ゴースト】から逃げている途中だったんだな。
だが、この近くにはいるはずだ。 【ゴースト】もな。 ……捜すぞ!
ああ!/はい!
因みに、ハッカー集団はどんな犯罪を?
主に個人情報を抜き取って、 裏でその名簿を高額で売ってたんだ。 三郎がずっと追ってたんだが……。
じーちゃん、ばーちゃんに詐欺の電話をかける組織に 名簿を流してたんだぜ! 許せねぇよな!
他にも余罪がたっぷりだったんだ。 百害あって一利なしの連中だよ。 【MIRA】に入って、なにをやろうとしてたんだか。
ぜってー悪いことしようとしてたんだろ! 早く捕まえて警察に突き出そうぜ!
【MIRA】へは一方通行ですよね?
あ、そうか。 普通に入っても出れねーんだ。 あいつら、出る方法を知ってたのか?
ログインしているのは実行役かもしれないな。 指示役に「帰る方法はある」とそそのかされて、 帰る手段もないのに入ってる可能性もあるな。
未帰還者の個人情報が狙いでしょうね。 外から抜こうとしてもできなかったから、 内側から収集するつもりなのかもしれません。
実行役ってことは、下っ端だよな。 つーことは、 そいつらだけ捕まえても意味ねえってこと……か?
意味ないことはないけど、 指示役やその大元を捕まえる必要がある。 そこは、僕が連中の端末から解析してみるさ。
じゃあ、警察が来るまでの間、 連中が暴れて逃げないよう、押さえつけておくぜ!
脳筋はそうしてくれると助かるな。
脳筋は余計だ!
一網打尽とはいかねぇのが歯痒いが、 そうやって少しずつ追い詰めるしかねぇな。 一歩一歩、確実に行くぜ!
ああ!/はい!
【Buster Bros!!!】のみなさんは 連携が取れていてすごい。 こうやってイケブクロの治安を守っているのか。
まずは、ログインしたハッカーを無事に保護することだ。 どこかに手がかりがあればいいんだが。
追ってるのは、俺の【ゴースト】なんだよな。 だとしたら拠点は、 【萬屋ヤマダ】の事務所か……?
そうだな……。 見たところ【ゴースト】の姿もねぇし、 一度、うちの事務所に行ってみるか。
そうですね。 道に迷った二郎の【ゴースト】が戻ってきてるかも しれないですし。
俺は迷い猫じゃねー!
――……
――VR萬屋ヤマダの前
みなさんとともに、 【萬屋ヤマダ】の事務所にやってきたのだが、 事務所には違和感が……。
ど、どういうことだ!?
僕たちの事務所が…… 二郎の名前になってる……だって……?
――【萬屋ヤマダ】の文字が【萬屋ヤマダジロウ】になっている。
そうか……。 二郎の【ゴースト】はひとりで事務所をやってんのか。 俺と三郎の【ゴースト】がいないから……。
バカが所長の事務所なんて……。 一体なにができるっていうんだ……。
いや、まだわかんねーし! 俺の【ゴースト】は頭がいいかもしんねーだろ!
【ゴースト】で張り合うな! 仮にそうだとしても、お前とは別人だからな!
もし頭が良かったとしても……わかんねーな。 俺がひとりで事務所をやる姿は想像できねー。
事務所の前に人がいるな。 ……未帰還者か? 話を聞いてみるぞ。
あっ、山田二郎さん!
えっ、俺?
さっきは助かりました! 怖い人に暗証番号を教えろと脅迫された時…… 本当にどうなるかと……!
もしかして……
【ゴースト】か……!
それは俺と同じ姿だけど別人で……。 あっ、そうだ! どこで会いました?
向こうの裏路地で助けてくれましたよね……? 怖い人を追いかけていったから、 捕まえてくれたのかと思って……。
女性には事情を伝え、現実に帰還させた。 二郎さんが聞いてくれたお陰で、 【ゴースト】の足取りが掴めたが……。
大体の位置はわかった! ハッカーが追い付かれないうちに行こうぜ!
そうだな!/ああ!
――……
――VRイケブクロ 路地裏
ブクロのあちこちがぶっ壊されてるな。 看板もひっくり返ってるし、標識も折れてる。 これも、【ゴースト】がやったのか……?
隠れたり逃げたりしてるハッカーを追い詰めるために、 後先考えずに破壊しまくったんでしょうね……。
これは俺でもわかる。 やりすぎだ……。
二郎さんの【ゴースト】の破壊の痕跡は続く。 人間まで壊される前に、ハッカーを確保しなくては……!
――VRイケブクロ 西口公園
破壊の痕跡を辿って公園までやってきた。 二郎さんの【ゴースト】はいるだろうか。
オラァ! ようやく追い詰めたぜ!
この声は……!

俺のブクロでウロチョロしやがって! 目ざわりなんだよ、クソハッカー!
うう……、くそっ……!
まだ抵抗する気力があるとはな。 二度と悪さができないように、 再起不能にしてやるぜ!
あいつ、マイクを使う気だ!
このままだと、 あのハッカーも精神を壊されるぞ……!
やめろ!!
お前は、俺のオリジナル……?
ここまでしなくても、勝負は見えてるだろ!
いいや、まだだ! 【MIRA】のトラブルは徹底的にぶっ潰す!
――二郎、ハッカーBを庇う。
俺の邪魔をする気か? そこをどけ!
だから、やりすぎだって言ってんだ! いくらなんでも、一方的にボコすことはねーだろ!
なあ、 お前が【MIRA】を大切に思う気持ちはわかる。 一度、落ち着いて話さねぇか?
なんだと?
お前の【MIRA】が俺たちにとってのブクロなんだろ? だからトラブルを憎んで攻撃する。 違うか?
違わねーよ。 だからって、口出しすんな!
やれやれ。 お前だって、大した知能は持ち合わせていないんだ。 ひとりで、なんでもできるわけないだろ?
だから抱え込むなよ。 そこのハッカーは現実から来たトラブルなわけだし、 あとはこっちがどうにかするからさ。
敵のお前らが指図すんじゃねぇ! お前らの手なんて借りるもんか! 返り討ちにしてやる!
おい、俺たちは……!
危険ナントカを連れてきやがって。 俺を排除するつもりなんだろうが!
危険……ナントカ? そんなのはいねーよ!
実習生が、 「危険因子」と呼ばれていたような気がするけど……。
きっと自分のことだと思います……!
その危険ナントカを連れて、 ぞろぞろ俺の前に出てきやがって! 【MIRA】をぶっ壊すつもりなら、容赦しねぇ!
自分は【MIRA】を元に戻したいだけです!
そうだ! こいつは【MIRA】を大事に思ってるやつだ! ぶっ壊そうなんて思ってねぇ!
こいつからは本気で 【MIRA】を守りたいっつー気持ちが伝わってくる。 その気持ちは、お前と同じはずだ!
二郎さん……!
お前は、危ない場所でも怖がらずに踏み込めるんだ。 本気じゃねーなんて思うやつはいねーよ。
違う!
なんだと?
そいつの守りたい【MIRA】と、 俺が守りたい【MIRA】は違う!
まあ、そうだろうな……。 本来の【MIRA】とバグった後の【MIRA】。 そこに決定的な壁があるんだろう。
それでも、ひとつの場所には変わりねぇ。 お互いに歩み寄ることはできないのか?
ひとつの場所だからこそ、奪い合わなきゃなんねぇ! 目指してるモンは違うはずだ!
そうか……。 ぶつかり合うしか……ないのか。
俺は誰の指図も受けない! 俺が【MIRA】のみんなを守るし、 邪魔者は全員ぶっ潰す!
俺ひとりで全部やってみせるんだ! 消されたやつらの分もな!
バカ野郎!
バカ……だと!?

なんでもひとりでできるなんて、思い上がりだ! 後先考えずに、散々暴れ回りやがって! ブクロのあちこちがボコボコじゃねーか!
くっ……! それは、ハッカーを追い詰めるために仕方なく……!
でも、他に方法があったはずだ! お前だってブクロをボコボコになんて したくなかったはずだ!
だけど……俺は……!
ひとりで抱え込むなっつってんだよ! 色んなやつと話し合って、 足りねぇところを助け合うのが大事なんだ!
……そうだな。 よく言った、二郎。
僕も、二郎がどうしてもって言うなら 手を貸すくらいするさ。
それは……
ぐっ……。 今のうちに……逃げるしか……。
あっ、おい!
逃がすか!
――二郎の【ゴースト】、ハッカーBに向けてマイクを構える。
やめろ!
――ハッカーBを庇う二郎。
ぐあああっ!
二郎!
二郎さん!
二郎さんはハッカーを庇って 【ゴースト】の攻撃をまともに受けてしまった。 大丈夫だろうか……!?
くっ……!
大丈夫か、二郎!
無茶するな! これだから低能は!
お……俺は平気だ!! それよりも……!
ああ! ハッカーは捕まえたぜ!
くそっ……!
ハッカーは任せてください!
ああ、頼んだぜ! 俺たちは、あいつと決着をつけなきゃならねぇ!
なんでだ……。 なんでそこまでして、そいつを庇うんだ! 個人情報を抜き取るために、住民を脅してたやつだぞ!
そういう卑劣な連中が許せねぇって気持ちはわかる。 でも、お前がやりすぎだってのもわかる!
同じ気持ちがあれば手を取り合えるはずだ! お前はひとりじゃない! 俺たちがいる!
そうだ。 譲り合えないところもあるだろうが、 協力し合えることもあるはずだ!
ひとりで突っ走っても行き詰まるだけだぞ。 一兄と僕がいれば、 お前の足りないところくらい補えるさ。
ゴチャゴチャうるせぇ! 他人の手を借りるのは、弱いやつのやることだ!
――二郎の【ゴースト】、マイクを構える。
聞く耳持たねぇってか! 仕方ねぇ!
二郎さんの【ゴースト】が臨戦態勢になると、 盛り上がりの気配を感じてか 電脳ラッパーが集まってきた!
YO! YO! 盛り上げてやるぜ!
クソが……! 俺の戦いなんだから、いらねぇっての!
二郎、集まってきた奴らは俺らに任せろ。 お前は【ゴースト】を頼む!
わかったぜ、兄貴! そっちは頼んだ!
お前が【ゴースト】に専念できるように 雑魚は蹴散らしてやる。 感謝しろよ、二郎。
生意気言いやがって……。 けどよ、頼もしいぜ!
実習生、ぶちかましてくれ!
ぶちかまします!
――マイクの封印を解除する。
行くぜ、オラァ!
返り討ちにしてやるぜ!
――……
ぐああああっ!
どうだ! これが3人の……いや、4人の力だ!
まだだ……! 俺は……まだやれる……!
無理すんな。 お前は、もう……。
認めねぇ……! 俺ひとりじゃ、なにもできないなんて……!
なにもできなかったわけじゃない。 お前は、ハッカーに襲われていた人を助けただろ?
そうだぞ。 その人はお前にお礼を言うために事務所に来てたんだ。 自分がやったことを誇れよ。
けど……!
だーーーっ!
テメーは【MIRA】を守りたかったのか、 ひとりで、なんでもできるようになりたかったのか、 どっちなんだよ!
……【MIRA】を、守りたかった。 だから、【MIRA】に住んでる人を守りたかったんだ。
未帰還者は住んでるっていうよりも帰れないんだが、 こいつらにとっては住民っていう位置づけなのか……。
【MIRA】を守りたいなら、そこにいる連中を 守ることを優先すりゃよかったじゃねーか! ひとりでやることに、こだわらずによ!
目標がふたつあったら、 考えることが多くて大変だろうが! 俺がそうだしな!!
自分の頭の悪さをよく認めたな。 褒めてやるよ。
俺は、ひとりで抱えきれないものを 抱えようとしていたのか……?
そーだ。 ひとりでできることには、限度がある。 でも、やりたいことはいっぱいある。
そういう時に、誰かの力を借りるんだ。 誰かの力を借りるのは、弱さじゃない。 お互いさまってやつだ。
お互い……さま……?
そう。そいつが困ってる時に、自分の力を貸す。 それが、絆ってやつだ。
力を借りる代わりに、力を貸す……。 それは、弱いやつのすることじゃない気がする。 絆ってのは、そういうことだったのか……。
俺も誰かの力を借りてたら、 ブクロのあちこちを壊すこともなかったかも しれねぇな……。
やっちまったものは仕方ねぇよ……。 けど、中途半端になってるやつはどうにかしないとな。
そうだな……。 これ以上、 ハッカーが【MIRA】を荒らさないように……。
安心しろ! ハッカー野郎は俺たちが責任もってどうにかする。 あとは現実で引き継ぐぜ!
悪いな……。 あんだけ啖呵切ったのに、 任せっぱなしとか情けないぜ……。
忘れたのか? お前はハッカーに襲われてた人を助けたんだ。 任せっぱなしなんかじゃねぇよ!
そうだな。 困っている人を助けてくれたのは、 同じブクロの仲間として誇らしいぜ。
その場所を守りたいって気持ちは、 仮想だろうが現実だろうが関係ない。 バカなりによくやったんじゃないか?
……あたたかくて、心地いいな。 これが、絆ってやつか……。 もう少し早く出会えてたら、ダチになれたかもな……。
馬鹿野郎……。 俺たちは、とっくにダチだぜ……。
【ゴースト】が消えてしばらくの間、 二郎さんはその場から動こうとしなかった。 自分はただ、それを見守ることしかできなかった。
――萬屋ヤマダ 事務所
【MIRA】からログアウトした後、 ハッカーたちを警察に引き渡した。 彼らは余罪もあるし、しかるべき対応をされるだろう。
指示役の居場所も突き止めて とっ捕まえたし、これで一段落だな。
端末の履歴から指示役の居場所を突き止めたのは 僕なんだ。 存分に感謝するんだな。
指示役が逃げようとしてんのを、 体を張って止めたのは俺だろうが! 俺のほうが活躍したっての!
まあまあ、ふたりともよくやったな。 みんなで協力したから犯人を捕まえられたんだ。
みなさんのお陰で、 【MIRA】を利用した犯罪を阻止できた。 自分も感謝の気持ちを伝えた。
気にすんなって! これもお互いさまってやつだ! それに、俺たちはダチなんだからよ。
友だちだなんて嬉しいです!
おっ、マジか! そんなに喜んでもらえるなんて、こっちも嬉しいぜ!
あんまり二郎となれ合わない方がいいぞ。 バカがうつるかもしれないしな。
うつらねーっての! いや、実習生と一緒にいれば、 頭がいいのがうつる……か?
そんなわけあるか、バカ。
はははっ。 一緒にいれば影響を受けることもある。 それでお互いを高め合えばいいじゃねぇか。
それがダチの強みだもんな! ……俺は、あいつのダチとしてうまくやれたかな。
俺の【ゴースト】がなかなか表に出なかったのは、 【MIRA】の中で 人助けをしてたからだったんだろうし……。
俺たちは【MIRA】の犯罪を阻止した。 あいつのやりたかったこと、 充分に引き継げたと思うぜ。
そうですね。 少なくとも、未帰還者に手を出す連中は 排除できましたし。
そっか! でも、ああいうやつらは他にもいるかもしれねーし、 注意しとかねーとな。
へぇ、二郎にしては先を見通せているじゃないか。 僕のほうでも、引き続き注視しておくよ。
俺も気にしておくぜ。 現実だろうと仮想だろうと、 人を守るのは大事なことだからな。
自分も、なにかあったら相談するかもしれません
ああ、頼むぜ! 今回みたいに連携できるかもしれないしな!
――実習生のスマホの通知音が鳴る。
あれ?
今の音、アプリの通知音か?
謎アプリの通知音だ。 スマホを取り出して謎アプリを開いてみるが、 特に変化は見られない。
誤作動か? 【ゴースト】を倒した後の動きは、 いつもと変わらなかったのか?
想像通り、二郎さんの【ゴースト】の分の 炎が灯っている。 それ以外に変わったことはなかったと伝えた。
今まで誤作動なんてなかったんだろ? 気になるところだな……。
もしかして、 アプリがなにか伝えようとしてるんじゃねーか?
アプリが意志を持っているというよりも、 搭載されているAIが 動き出したのかもしれないな……。
炎も集まってるし、 それに伴って力が蓄積されている……とかか? 俺も詳しいことはわからねぇが。
何かを伝えたがっている……ような気はします
そっか。 あんたがそう言うなら、そうなのかもしれないな。
怪しい動きをしたら、すぐに教えろよ。 そいつの目的はまだ確定してないんだから。
けどよ、助けてくれたこともあるみてーだし、 そいつともダチみたいになれるといいな!
そうですね……!
謎アプリの中に神来社さんのAIがいるのなら、 こちらに何かを訴えようとしているのだろうか。 【ゴースト】を倒していけば、それもわかる気がする。
