ヒプノシスマイク-Dream Rap Battle-

Chapter 16 歪んだ裁きの連鎖を断て

TRACK 1 未帰還者の共通点

――天国法律事務所 獄の執務室

――ドアをノックする。

???

開いてるぜ。

天国獄

よう、実習生。 待ってたぞ。

実習生

すみません、急に押しかけて……

実習生

昨晩、【MIRA】の開発スタッフから とある連絡があった。

実習生

その内容と状況から 獄さんの力を借りるのが最善だと判断し、 急遽、連絡をとらせてもらったのだ。

天国獄

そう恐縮すんな。 お前からの相談なら、いつだって受けてやるよ。

天国獄

さっそく本題といきてぇところだが、 その前に――

波羅夷空却

よぉ、実習生! 久しぶりじゃねぇか。

四十物十四

ナゴヤまで、ようこそっす!

実習生

おふたりも来てたんですね

天国獄

ちょうど、空却が十四を連れて事務所に来たんでな。 力になるかと思って引きとめておいた。

波羅夷空却

だいたいの話はすでに聞いてる! 拙僧たちに任せな!

四十物十四

自分はお役に立てるかわかんないっすけど…… 精いっぱい頑張るっす!

実習生

ありがとうございます!

実習生

獄さんだけでなく、 空却さんと十四さんも手を貸してくれるなら こちらとしても心強い。

天国獄

そういうわけだ。 時間もねえだろうし、本題に入ろうぜ。

天国獄

事前に送ってもらった資料には、目を通してある。 なかなか困った状況みてぇだな。

天国獄

【MIRA】に行ったきりの未帰還者たちが、 現実世界で突然苦しみだしたという多数の報告――

天国獄

それが開発会社へのクレームに発展し このままじゃ集団訴訟を起こされかねない、か。

実習生

はい。どうしたらいいか……

波羅夷空却

未帰還者の問題、長引いてやがるしな。 奴らの家族からしたら、 不安になっちまうだろうな。

四十物十四

自分だけで抱えるには大きすぎて、 どこかに感情の矛先を向けずにいられない…… っていう感じなのかもっすね……。

天国獄

ああ。クレームに目を通してみたが、 ほとんどは責任の追及が目的じゃねぇ。 「原因を解明してほしい」っていう、陳情が本質だ。

天国獄

苦しんでる原因を特定して 連中を助けられれば、 ほとんどが訴訟を取り下げるだろうよ。

四十物十四

それが、今回のミッションってことっすね。

天国獄

現実世界で苦しむほどの精神的ダメージとなると まあ十中八九、【ゴースト】が原因だろう。

天国獄

訴訟対応だけなら、開発側の社内法務部で十分だろうが 今回は【MIRA】内での状況調査、 場合によっては戦闘が必要になる。

天国獄

おまけに、苦しんでる未帰還者は VRナゴヤ周辺に集まってるときた。

天国獄

外部協力者として俺を頼ったのは、 正しい判断だと思うぜ。

実習生

獄さんの言葉に頷く。 必要な要素と状況を、しっかり把握してくれている。

波羅夷空却

にしても、おかしくねぇか? 同じナゴヤの中でも、苦しんでる奴と そうじゃねぇ奴がいんだろ?

天国獄

……それなんだがな。 少し気になる情報を掴んだ。

波羅夷空却

なんだぁ?

天国獄

俺なりに今回の対象者を調べてみたんだが…… こいつらには、ある共通点があった。

天国獄

過去に何かしらの犯罪に手を染めてんだよ。 もれなく全員な。

四十物十四

全員……? 偶然にしては、できすぎっすね。

天国獄

だろ? 今は、刑期を終えて出所してるようだが……。

天国獄

どうも、この共通点が引っかかる。 俺の気のせいならいいが 今回の件、もしかすると――

波羅夷空却

はっ、そんなの直接行って確かめりゃいいじゃねぇか! ここでちんたら考えてても、 状況は変わんねぇだろ。

天国獄

……それもそうだな。 そうと決まれば、あとは実地調査だ。

天国獄

いくぜ、【MIRA】へ。

天国獄

俺の目で、真相を 見極めてやろうじゃねぇか!

TRACK 2 裁きを超えて

――VRナゴヤ オオス

四十物十四

こ、これって……!

波羅夷空却

なんだこりゃ! 貼り紙だらけじゃねぇか。

天国獄

ひでぇ景観になっちまったな。 しかも、ここに貼られてるのは――

天国獄

例の未帰還者たちの情報みてーだな。 ご丁寧に、プロフィールと犯罪歴まで 書かれてやがる。

四十物十四

まるで指名手配書っす。 でも、この人たちはもう罪を償ったんすよね……?

天国獄

そのはず、だ。

天国獄

それに、上から書かれた×(バツ)印…… なんだこいつは?

波羅夷空却

おい。 こっちには×がついてねぇのもあるぜ。

天国獄

……ん?

天国獄

こいつも……それに、こいつも。 苦しんでる未帰還者とは違う連中だ。

天国獄

だが、この貼り紙によると こいつらにも過去に犯罪歴があるらしいな。 軽犯罪、過失による事故まで調べてやがるのか。

天国獄

これを貼った奴は 相当、犯罪を憎んでるみてーだな。 ってことは、やっぱり俺の――

通りすがりの女性

あ、あなたたち! もしかして、その貼り紙の人たちを見かけたの?

波羅夷空却

いーや? 見かけてたら、なんだってんだ?

通りすがりの女性

知らないの……? ここに載ってるのは、犯罪者よ。 彼らを見つけたら、報告しなきゃならないの。

天国獄

報告だと? いったい誰に――

通りすがりの女性

それは…… って、あなた、もしかして!!

通りすがりの女性

天国獄!?

通りすがりの女性

し、失礼しました……!

天国獄

あ、おい……!

四十物十四

行っちゃったっすね……。

波羅夷空却

テメェのこと、怖がってたみてぇだな。 知り合いか?

天国獄

いいや。 だが、嫌な予感がしやがるぜ……。

天国獄ゴースト

よう、善良な市民諸君。 街の清浄化は進んでるか?

四十物十四

ひ、獄さん、あれって……!

――街の巨大モニターに獄の【ゴースト】が現れる。

天国獄

チッ。嫌な予感が当たりやがったな。

天国獄ゴースト

お前たちの協力のおかげで、 これまで7名の犯罪者が捕まった。 この調子なら、ほかの連中もすぐに捕まるだろうよ。

天国獄

7名……苦しんでる未帰還者と同じ人数だ。 やっぱりこいつが……!

天国獄ゴースト

俺は、【MIRA】を平等な世界だと思っている。 だが……その平等を享受するための 条件は、ふたつある。

天国獄ゴースト

ひとつ、「清廉潔白であること」。 ふたつ、「そうじゃない奴を排除すること」だ。

天国獄ゴースト

いいか。 罪ってのは、消えねぇ染みだ。

天国獄ゴースト

あいつら犯罪者は、 染みついた過去をなかったことにして 平等を味わおうとしている。

天国獄ゴースト

正しく生きてる奴らと同じなんて虫が良すぎるよなぁ? そんな染みは除去して、 「正義」による真っ白な世界を作ろうじゃねぇか。

天国獄ゴースト

ああ、そうだ。 もしも指名手配犯をかくまったりしたら それも立派な罪になるぜ。

天国獄ゴースト

そんなことで、消えない染みを作るこたぁねえ。 犯罪者を突き出すか、自分も犯罪者になるか…… どっちが賢いかは、わかるよな?

天国獄ゴースト

それじゃあな。 市民諸君、報告を待ってるぜ。

――モニターの映像が消える。

波羅夷空却

なんつー演説だよ。 獄、お前腹の中であんなこと考えてやがったのか!?

天国獄

ンなわけあるか! あいつは俺の姿をしてるが俺じゃねぇ。

天国獄

罪を憎むって点では同じかもしれねぇが あれじゃあ、まるで……。

四十物十四

罪は、消えない染み……。 犯罪をおかしちゃいけないのは わかるっすけど……。

実習生

償ったあとも指名手配扱いなのは……

天国獄

ああ。やりすぎだ。 裁かれた人間に追い討ちをかけるのは 私刑と変わらねぇ。

天国獄

それに、一言に犯罪っつっても事情は様々だ。 たとえばあそこに貼られてた未帰還者は、 過失によって罪を――

――貼り紙の前に立っている男が目に留まる。

天国獄

ん? あの男…… 手配書で見た奴じゃねえか!

波羅夷空却

何コソコソしてんだ? あいつ。

四十物十四

……よく見えないっすけど、 指名手配書をはがそうとしてるんすかね……?

天国獄

おいおい。 ンなことしても捕まるだけだぞ!

――獄、男へ近寄る。

四十物十四

あっ、待ってくださいっす! いきなり獄さんが行ったら……!

天国獄

おい、あんた……!

指名手配された男

ひっ! あ、天国獄……!?

指名手配された男

ち、違う! これはその……くそっ!

――男は慌てて逃げていってしまう。

天国獄

待て、俺は……!

波羅夷空却

やっぱビビらせちまったな。 これじゃ、どっちがお尋ね者かわかんねぇぞ。

天国獄

やりづれぇな……。

天国獄

だが、間違いねぇ。 さっきのは指名手配されてる奴らのひとりだ。

四十物十四

あの人はまだ、 【ゴースト】に見つかってないみたいっすね。

天国獄

ああ。だが【ゴースト】に捕まっちまったら 十中八九、精神攻撃の標的にされるだろう。

波羅夷空却

なら、追うしかねぇな! いくぞ十四!

四十物十四

はいっす!

天国獄

実習生は、俺と来てくれ。 二手にわかれて、囲い込むぞ!

実習生

わかりました!

天国獄

逃げた男を保護して、 今のうちにログアウトさせる!

天国獄

いくぞ!

TRACK 3 正義という名の処刑

指名手配された男

……よし。 この先に抜ければ――!

波羅夷空却

おっと。ここから先は通さねぇぜ?

四十物十四

闇に惑い進まんとする者よ。 甘美なる掌に包まれるがいい! (訳 逃げずに保護されてくださいっす!)

指名手配された男

あ、あんたたちは天国獄と一緒にいた…… ゆ、許してくれえ!

天国獄

許すも何も、俺はあの演説してた野郎じゃねーよ。

指名手配された男

え……!?

天国獄

あんたを保護して、ログアウトさせる。 それが俺らの目的だ。

天国獄

まあ、その前に 状況を聞かせてもらいてぇがな。

指名手配された男

あ、あんたたちはいったい……。

――……

天国獄

……なるほど。 やっぱり【ゴースト】は 犯罪歴のある人間を狙ってやがるんだな。

天国獄

それは、あんたみたいに過失で罪を犯したり すでに法で裁かれた人間でも関係ねぇ。

天国獄

奴の正義からはみ出す者を 私的に裁いてるってわけだ。

指名手配された男

ああ。 捕まった奴らは「処刑場」に送られ、 あいつに公開処刑される……。

天国獄

処刑、か。 嫌な響きだが…… そこでいったい何が行われてるかわかるか?

指名手配された男

よくは見えなかったが…… あいつがマイクを取り出して、捕まった奴らに 何かしてるみたいだった。

指名手配された男

処刑された奴らは、苦しんだあと動かなくなって そのまま、どこかに引きずられて…… ……悪い、これ以上のことはわからねぇんだ。

天国獄

ああ、十分だ。 嫌なことを思い出させちまって、悪いな。

指名手配された男

俺だって、罪を犯したことは悔いている。

指名手配された男

でも、現実で法の裁きを受けたうえで 更にこんな目に遭うなんて……。 これが本当に正義ってもんなのか?

天国獄

正義か。 それを定義すんのは、難しいが――

天国獄

あんたは過去の罪を償い、反省してるんだろ? 少なくとも俺は、あの野郎の一存で 処刑されるべきだとは思わねぇよ。

波羅夷空却

違ぇねぇな。 因果応報にも、程度っつうモンがある。

指名手配された男

あ、ありがとう……。

四十物十四

処刑されてしまった人たちは 今も現実で苦しんでるっす。 なんとか助け出してあげなきゃっすね……。

実習生

その人たちは、今も処刑場に?

指名手配された男

ああ。誰も姿を見ていないから 捕まったままだと思う。

指名手配された男

案内してやりたいところだが 場所が明かされてなくてな。

指名手配された男

処刑の映像は配信されてるから それなりに広い場所ってことは わかってるんだが……。

天国獄

ありがとよ。 それだけわかれば、あとは俺たちで何とかする。

天国獄

実習生。 この人をログアウトさせられるか?

実習生

やってみます!

電脳ラッパーA

させねぇYO!

指名手配された男

ひぃっ!?

天国獄

不意打ちか!

波羅夷空却

くそ! マイクの準備はしてねぇってのに!

実習生

先に、封印解除を……!

四十物十四

わかったっす! 実習生さんを守らないと――

電脳ラッパーB

ははッ! 戦う気はねぇYO!

電脳ラッパーC

俺らの狙いは、こいつだ!

指名手配された男

うわぁあッ!!

天国獄

くそ、てめぇら!!

――男に駆け寄ろうとするも、電脳ラッパーの攻撃で近づくことができない。

指名手配された男

た、助け――

――電脳ラッパーたちが男を連れていってしまう。

天国獄

待て!!

TRACK 4 処刑場を見つけ出せ

天国獄

……くそっ! 見失ったか。

四十物十四

行き先はきっと処刑場っす。 場所は明かされてないって話だったっすけど……。

波羅夷空却

どうするよ。 アテがねぇなら、足で探すしかねぇか?

天国獄

そうこうしてる間に、処刑されちまうかもしれねぇ。 できることなら、場所の目星をつけておきたいが。

実習生

さっきの男性のログを追ってみます

実習生

……【MIRA】のAIに妨害されているのか うまく特定できないと、みなさんに伝えた。

天国獄

あちらさんも対策済みってわけか。 となると……。

――実習生のスマホの通知音が鳴る。

実習生

通知音に気づき、スマートフォンを確認する。 そこには、謎アプリから情報が送られてきていた。

実習生

これは、座標……?

実習生

これまでの謎アプリの挙動を考えると、 おそらく次に向かうべき場所―― 処刑場の位置を示したものだろう。

実習生

手持ちのマップに座標を入力すると、 とある大型商業施設を示している。 みなさんにスマホの画面を見せた。

四十物十四

処刑場がここに……?

四十物十四

確かに建物は大きいっすけど 中はお店がいっぱいっすよね? そんなスペースがあるとは思えないっす……。

波羅夷空却

ンなとこにあったら さすがに誰か気づきそうだしな。

天国獄

だな。そんなに目立つ場所にあれば とっくにみんな、処刑場の存在を知ってるはずだ。

実習生

敷地内のどこかに隠されているとか……

天国獄

なるほどな。立入禁止のエリアなり 外から見えない場所なり、可能性はありそうだ。

波羅夷空却

獄、相手はお前の【ゴースト】だろ。 何か心当たりねぇのかよ?

天国獄

だから、俺を元にしてるだけで俺じゃねぇ。

天国獄

……だが、仮定から推察することはできる。

天国獄

あいつは、犯罪歴のある者が 日の当たる場所を歩くべきじゃねぇと思ってる。 となれば、おそらく――

波羅夷空却

地下か!

四十物十四

地下っすね!

波羅夷空却

よっしゃあ、そうとわかれば乗り込むだけだ! いくぞお前ら!

――……

――VRナゴヤ 大型商業施設

実習生

獄さんの予想と謎アプリからの座標をもとに、 大型商業施設にやって来た。

実習生

その地下に広がっていたのは――

実習生

地上の商業施設とは似ても似つかない、 異様な空間だった。

四十物十四

これは……。

天国獄

どうやら、当たりらしいな。 処刑場の名前の通り、嫌な感じのする場所だぜ。

波羅夷空却

同感だな。 さっさと進んで、【ゴースト】をぶっ飛ばすぞ!

天国獄

待て! 【ゴースト】のほかに、どれだけ敵がいるか わからねぇんだぞ。

四十物十四

そうっすよ! 捕まってる人たちに危険が及ぶかもしれないし こっそり助け出すって手も――

――壁面モニターに獄の【ゴースト】が現れる。

天国獄ゴースト

よぉ。善良な市民諸君。 街の清浄化への協力、感謝する。

天国獄

!!

天国獄ゴースト

皆の協力もあって、今日は指名手配犯をひとり 捕らえることができた。

天国獄ゴースト

こいつだ。

指名手配された男

た、助けてくれ! 俺に、やり直す機会を……!

四十物十四

あれは…… さっき保護しようとしてた人っす!

天国獄

ああ。それに、【ゴースト】のほかにも 電脳ラッパーが大勢いやがる……。

天国獄ゴースト

この男の罪状はふたつ。 ひとつ、「過去に交通事故を犯したこと」。 ふたつ、「この世界での裁きから逃げ続けたこと」だ。

指名手配された男

うう……っ。

天国獄ゴースト

平等で平和な世界のため、 俺はこいつに裁きを与える。

天国獄ゴースト

その精神エネルギーを捧げ、 【MIRA】の礎になるんだ。

天国獄ゴースト

そうしてお前は、現実でも苦しみ続ける。 その命が尽きるまでな!

指名手配された男

た、助けてくれ…… 誰か……!

天国獄ゴースト

懺悔する時間くらいは与えてやる。 罪を悔やみ、己を恥じるがいい!

天国獄

…………ッ。

天国獄

お前ら。 ……強行突破だ。

四十物十四

獄さん……?

天国獄

ちんたらしてる暇はねぇ。 俺の目の届くところで 私刑なんざ、やらせてたまるか!

天国獄

いくぞ!

TRACK 5 俺たち弁護士がいる理由

天国獄ゴースト

時間だ。 そいつを処刑台に縛りつけろ!

天国獄ゴースト

ああ、そうだ。 カメラの向こうの観客に、よく見えるようにな。

指名手配された男

うう……っ。

天国獄

待て、【ゴースト】!

天国獄ゴースト

……よう、もうひとりの俺。 お前もこいつに裁きを与えにきたのか?

天国獄

んなわけねぇだろ! 今すぐ処刑を中止しろ!

天国獄ゴースト

なぜ止める? 裁きは、平等で平和な世界のためにある。

天国獄ゴースト

それを行う正義は、 お前の中にもあるはずだろ?

天国獄

――――!

天国獄ゴースト

俺はな。 平等で平和な世界を創るためには、 一点の曇りも許さねぇ。

Chapter 16
天国獄ゴースト

だから、あらゆる罪を徹底的に裁く。

天国獄ゴースト

それが俺の、正義だからだ!

天国獄

……なるほどな。 それがお前の考えってわけか。

天国獄

まさか俺の【ゴースト】が、法を無視して 正義を語るとは……笑えねぇな。

天国獄ゴースト

ふん。反論があるらしいな。

天国獄

当たり前だ。 主義主張を無理やり押し通そうとするのは ただの暴君だ。そうだろ?

天国獄ゴースト

はっ。結構だ。 正義とは俺。俺に反する奴は悪だからな!

天国獄ゴースト

マイクを出せ。 俺を暴君だと言うなら お前の正しさを証明してみせろ!

天国獄

ふぅ、しょうがねえ。 俺とお前の論議は、どこまでいっても平行線だな。

天国獄

――実習生。 マイクの封印解除を頼む。

実習生

わかりました……!

天国獄ゴースト

強い方が勝ち、勝った方が正義。 わかりやすいだろ?

天国獄

別に、正義を押しつけるために戦うわけじゃねぇよ。 ただ俺は、お前の主張が気にくわねぇだけだ。

天国獄

正しさってのは、 ひとりの主観で決めるもんじゃねぇ。

天国獄

万人を公平に扱うために法があり、 俺たち弁護士がいるんだろ。

天国獄

てめぇのやってることは、 ただの独裁だ!

波羅夷空却

法だのなんだのってのは よくわからねぇが……

波羅夷空却

てめぇが言い張るそれは、 他人の道を断つためのもんだ。

波羅夷空却

なら、拙僧の説法が必要だろうよ!

四十物十四

自分も、むずかしいことは よくわからないっすけど……

四十物十四

平等って、ひとりの言い分に 支配されるものじゃないと思うっす……!

天国獄

俺には我慢ならねぇもんがふたつある。

Chapter 16
天国獄

ひとつ、「喫茶店で大声で喋る奴」。

天国獄

もうひとつは、 「自分の主張を押しつけてくる奴」だ!

――マイクの封印が解除される。

天国獄

いくぜ、お前ら!

天国獄ゴースト

さあ、どっちが正しいか決めようじゃねえか!

――……

天国獄ゴースト

ばかな……ッ!!

天国獄ゴースト

嘘だ、正義が負けるわけがない。 なぜだ……!

天国獄ゴースト

……いいや、違う。 負けたということは、俺の正義は 間違ってたってことか……?

天国獄

そう落ち込むな。 俺から勝ちを取るってのが無謀なだけだ。

天国獄

それに、人にはそれぞれ正義がある…… 少なくとも、そいつにとっては間違いじゃねぇ。 善悪だって、人が勝手に決めるもんだ。

天国獄

だが、この世には法律ってもんがある。 それぞれが自分の主義主張だけで行動したら、 世界はとんでもないことになっちまうだろ。

天国獄

お前が法律を無視して私刑を行ったのは 褒められたことじゃねぇ。 だが、裏を返せば……

天国獄

お前は、誠実に生きてきた人間を 守ろうとしてたわけだ。 それについては、情状酌量の余地がある。

天国獄

だからまずは、自分のしちまったことを受け入れて よく考えろ。

天国獄

お前が自分の罪を受け入れ、償った先には…… また違う世界が見えてくるだろうよ。

天国獄ゴースト

…………。 罪を償った先、か。

天国獄ゴースト

その先にあるのが、お前の思う法であり…… 正義なんだな。

天国獄

さてな。 正しくあろうと思ってはいるが…… 100パーセント正しい答えを選べるかはわからねぇ。

天国獄

だが、間違った先にも 人生ってのは続いてくんだ。

天国獄

それが、より良い方向へ向かうように―― 努力する価値は、あると思うぜ。

天国獄ゴースト

ふっ。そう、か。 俺も、この罪を償った先に、新しい世界が――

天国獄

ああ。待ってるぜ。 その時は一緒に、酒でも飲むか。

――獄の【ゴースト】、消えていく。

TRACK 6 俺自身を戒めるために

実習生

こうして、VRナゴヤでの一件は終わった。

実習生

処刑場に捕らわれていた人たちは 無事にログアウトし、現実で苦しむこともなくなった。

実習生

だが【ゴースト】が行っていた処刑は ヒプノシスマイクによる精神攻撃であり、 ダメージを受けた人たちは、すぐには動けないようだ。

実習生

「時間はかかるかもしれないが、 回復の余地は充分ある――」 その報告は、自分たちの心を少しだけ軽くしてくれた。

――……

天国獄

それで、その後どうだ? 苦情の件数は。

実習生

獄さんたちのおかげで、落ち着いたようです

実習生

獄さんが見抜いた通り、苦情のほとんどは 未帰還者を救出したことにより取り下げられた。

実習生

集団訴訟は免れ、開発会社としても できる限りのフォローをしている状況だ。

天国獄

そうか。そいつは良かったぜ。

波羅夷空却

なぁにが「良かったぜ」だ。 自分もこっそり見舞いに行ってたくせに、 他人事みたいに言うじゃねぇか。

天国獄

おい、それを言うなって……!

波羅夷空却

いいだろ別に、事実なんだからよ!

実習生

そうだったんですか?

四十物十四

獄さん、あの人たちの経過を心配してて……。 よく、お見舞いに行ってるんすよ。

天国獄

おい十四! お前まで……!

天国獄

……はぁ。 まあ、元はといえば 俺の【ゴースト】がしでかしたことだからな。

天国獄

【ゴースト】と同じ姿の俺を見て、 複雑に思う奴も多いだろうが…… まあ、できることはしてぇと思ったんだよ。

実習生

ありがとうございます

天国獄

よせ。別に、お前たち開発会社のために やってるわけじゃねぇ。

天国獄

見舞いに行けば、 自然と【ゴースト】のことを思い出す。

天国獄

あいつは俺自身じゃなかったが…… 道を踏み外した俺は、 ああなっちまうのかもしれねぇ。

天国獄

そう思って、俺自身を戒めるためにも 必要なことなんだよ。

天国獄

だから……まあ、気にすんな。 俺は俺の、お前はお前の やるべきことをするだけだ。

実習生

獄さんの言う通りだ。 自分は自分なりに、 この状況や【MIRA】と向き合えばいい。

実習生

自分のやるべきこと―― その先に、【MIRA】の進む未来も ひらけていくはずだからだ。

――……

――謎アプリの画面にノイズが走る……

???

――――

???

――――――――

Chapter 16 END