

――天国法律事務所 獄の執務室
――ドアをノックする。
開いてるぜ。
よう、実習生。 待ってたぞ。
すみません、急に押しかけて……
昨晩、【MIRA】の開発スタッフから とある連絡があった。
その内容と状況から 獄さんの力を借りるのが最善だと判断し、 急遽、連絡をとらせてもらったのだ。
そう恐縮すんな。 お前からの相談なら、いつだって受けてやるよ。
さっそく本題といきてぇところだが、 その前に――
よぉ、実習生! 久しぶりじゃねぇか。
ナゴヤまで、ようこそっす!
おふたりも来てたんですね
ちょうど、空却が十四を連れて事務所に来たんでな。 力になるかと思って引きとめておいた。
だいたいの話はすでに聞いてる! 拙僧たちに任せな!
自分はお役に立てるかわかんないっすけど…… 精いっぱい頑張るっす!
ありがとうございます!
獄さんだけでなく、 空却さんと十四さんも手を貸してくれるなら こちらとしても心強い。
そういうわけだ。 時間もねえだろうし、本題に入ろうぜ。
事前に送ってもらった資料には、目を通してある。 なかなか困った状況みてぇだな。
【MIRA】に行ったきりの未帰還者たちが、 現実世界で突然苦しみだしたという多数の報告――
それが開発会社へのクレームに発展し このままじゃ集団訴訟を起こされかねない、か。
はい。どうしたらいいか……
未帰還者の問題、長引いてやがるしな。 奴らの家族からしたら、 不安になっちまうだろうな。
自分だけで抱えるには大きすぎて、 どこかに感情の矛先を向けずにいられない…… っていう感じなのかもっすね……。
ああ。クレームに目を通してみたが、 ほとんどは責任の追及が目的じゃねぇ。 「原因を解明してほしい」っていう、陳情が本質だ。
苦しんでる原因を特定して 連中を助けられれば、 ほとんどが訴訟を取り下げるだろうよ。
それが、今回のミッションってことっすね。
現実世界で苦しむほどの精神的ダメージとなると まあ十中八九、【ゴースト】が原因だろう。
訴訟対応だけなら、開発側の社内法務部で十分だろうが 今回は【MIRA】内での状況調査、 場合によっては戦闘が必要になる。
おまけに、苦しんでる未帰還者は VRナゴヤ周辺に集まってるときた。
外部協力者として俺を頼ったのは、 正しい判断だと思うぜ。
獄さんの言葉に頷く。 必要な要素と状況を、しっかり把握してくれている。
にしても、おかしくねぇか? 同じナゴヤの中でも、苦しんでる奴と そうじゃねぇ奴がいんだろ?
……それなんだがな。 少し気になる情報を掴んだ。
なんだぁ?
俺なりに今回の対象者を調べてみたんだが…… こいつらには、ある共通点があった。
過去に何かしらの犯罪に手を染めてんだよ。 もれなく全員な。
全員……? 偶然にしては、できすぎっすね。
だろ? 今は、刑期を終えて出所してるようだが……。
どうも、この共通点が引っかかる。 俺の気のせいならいいが 今回の件、もしかすると――
はっ、そんなの直接行って確かめりゃいいじゃねぇか! ここでちんたら考えてても、 状況は変わんねぇだろ。
……それもそうだな。 そうと決まれば、あとは実地調査だ。
いくぜ、【MIRA】へ。
俺の目で、真相を 見極めてやろうじゃねぇか!
――VRナゴヤ オオス
こ、これって……!
なんだこりゃ! 貼り紙だらけじゃねぇか。
ひでぇ景観になっちまったな。 しかも、ここに貼られてるのは――
例の未帰還者たちの情報みてーだな。 ご丁寧に、プロフィールと犯罪歴まで 書かれてやがる。
まるで指名手配書っす。 でも、この人たちはもう罪を償ったんすよね……?
そのはず、だ。
それに、上から書かれた×(バツ)印…… なんだこいつは?
おい。 こっちには×がついてねぇのもあるぜ。
……ん?
こいつも……それに、こいつも。 苦しんでる未帰還者とは違う連中だ。
だが、この貼り紙によると こいつらにも過去に犯罪歴があるらしいな。 軽犯罪、過失による事故まで調べてやがるのか。
これを貼った奴は 相当、犯罪を憎んでるみてーだな。 ってことは、やっぱり俺の――
あ、あなたたち! もしかして、その貼り紙の人たちを見かけたの?
いーや? 見かけてたら、なんだってんだ?
知らないの……? ここに載ってるのは、犯罪者よ。 彼らを見つけたら、報告しなきゃならないの。
報告だと? いったい誰に――
それは…… って、あなた、もしかして!!
天国獄!?
し、失礼しました……!
あ、おい……!
行っちゃったっすね……。
テメェのこと、怖がってたみてぇだな。 知り合いか?
いいや。 だが、嫌な予感がしやがるぜ……。
よう、善良な市民諸君。 街の清浄化は進んでるか?
ひ、獄さん、あれって……!
――街の巨大モニターに獄の【ゴースト】が現れる。
チッ。嫌な予感が当たりやがったな。
お前たちの協力のおかげで、 これまで7名の犯罪者が捕まった。 この調子なら、ほかの連中もすぐに捕まるだろうよ。
7名……苦しんでる未帰還者と同じ人数だ。 やっぱりこいつが……!
俺は、【MIRA】を平等な世界だと思っている。 だが……その平等を享受するための 条件は、ふたつある。
ひとつ、「清廉潔白であること」。 ふたつ、「そうじゃない奴を排除すること」だ。
いいか。 罪ってのは、消えねぇ染みだ。
あいつら犯罪者は、 染みついた過去をなかったことにして 平等を味わおうとしている。
正しく生きてる奴らと同じなんて虫が良すぎるよなぁ? そんな染みは除去して、 「正義」による真っ白な世界を作ろうじゃねぇか。
ああ、そうだ。 もしも指名手配犯をかくまったりしたら それも立派な罪になるぜ。
そんなことで、消えない染みを作るこたぁねえ。 犯罪者を突き出すか、自分も犯罪者になるか…… どっちが賢いかは、わかるよな?
それじゃあな。 市民諸君、報告を待ってるぜ。
――モニターの映像が消える。
なんつー演説だよ。 獄、お前腹の中であんなこと考えてやがったのか!?
ンなわけあるか! あいつは俺の姿をしてるが俺じゃねぇ。
罪を憎むって点では同じかもしれねぇが あれじゃあ、まるで……。
罪は、消えない染み……。 犯罪をおかしちゃいけないのは わかるっすけど……。
償ったあとも指名手配扱いなのは……
ああ。やりすぎだ。 裁かれた人間に追い討ちをかけるのは 私刑と変わらねぇ。
それに、一言に犯罪っつっても事情は様々だ。 たとえばあそこに貼られてた未帰還者は、 過失によって罪を――
――貼り紙の前に立っている男が目に留まる。
ん? あの男…… 手配書で見た奴じゃねえか!
何コソコソしてんだ? あいつ。
……よく見えないっすけど、 指名手配書をはがそうとしてるんすかね……?
おいおい。 ンなことしても捕まるだけだぞ!
――獄、男へ近寄る。
あっ、待ってくださいっす! いきなり獄さんが行ったら……!
おい、あんた……!
ひっ! あ、天国獄……!?
ち、違う! これはその……くそっ!
――男は慌てて逃げていってしまう。
待て、俺は……!
やっぱビビらせちまったな。 これじゃ、どっちがお尋ね者かわかんねぇぞ。
やりづれぇな……。
だが、間違いねぇ。 さっきのは指名手配されてる奴らのひとりだ。
あの人はまだ、 【ゴースト】に見つかってないみたいっすね。
ああ。だが【ゴースト】に捕まっちまったら 十中八九、精神攻撃の標的にされるだろう。
なら、追うしかねぇな! いくぞ十四!
はいっす!
実習生は、俺と来てくれ。 二手にわかれて、囲い込むぞ!
わかりました!
逃げた男を保護して、 今のうちにログアウトさせる!
いくぞ!
……よし。 この先に抜ければ――!
おっと。ここから先は通さねぇぜ?
闇に惑い進まんとする者よ。 甘美なる掌に包まれるがいい! (訳 逃げずに保護されてくださいっす!)
あ、あんたたちは天国獄と一緒にいた…… ゆ、許してくれえ!
許すも何も、俺はあの演説してた野郎じゃねーよ。
え……!?
あんたを保護して、ログアウトさせる。 それが俺らの目的だ。
まあ、その前に 状況を聞かせてもらいてぇがな。
あ、あんたたちはいったい……。
――……
……なるほど。 やっぱり【ゴースト】は 犯罪歴のある人間を狙ってやがるんだな。
それは、あんたみたいに過失で罪を犯したり すでに法で裁かれた人間でも関係ねぇ。
奴の正義からはみ出す者を 私的に裁いてるってわけだ。
ああ。 捕まった奴らは「処刑場」に送られ、 あいつに公開処刑される……。
処刑、か。 嫌な響きだが…… そこでいったい何が行われてるかわかるか?
よくは見えなかったが…… あいつがマイクを取り出して、捕まった奴らに 何かしてるみたいだった。
処刑された奴らは、苦しんだあと動かなくなって そのまま、どこかに引きずられて…… ……悪い、これ以上のことはわからねぇんだ。
ああ、十分だ。 嫌なことを思い出させちまって、悪いな。
俺だって、罪を犯したことは悔いている。
でも、現実で法の裁きを受けたうえで 更にこんな目に遭うなんて……。 これが本当に正義ってもんなのか?
正義か。 それを定義すんのは、難しいが――
あんたは過去の罪を償い、反省してるんだろ? 少なくとも俺は、あの野郎の一存で 処刑されるべきだとは思わねぇよ。
違ぇねぇな。 因果応報にも、程度っつうモンがある。
あ、ありがとう……。
処刑されてしまった人たちは 今も現実で苦しんでるっす。 なんとか助け出してあげなきゃっすね……。
その人たちは、今も処刑場に?
ああ。誰も姿を見ていないから 捕まったままだと思う。
案内してやりたいところだが 場所が明かされてなくてな。
処刑の映像は配信されてるから それなりに広い場所ってことは わかってるんだが……。
ありがとよ。 それだけわかれば、あとは俺たちで何とかする。
実習生。 この人をログアウトさせられるか?
やってみます!
させねぇYO!
ひぃっ!?
不意打ちか!
くそ! マイクの準備はしてねぇってのに!
先に、封印解除を……!
わかったっす! 実習生さんを守らないと――
ははッ! 戦う気はねぇYO!
俺らの狙いは、こいつだ!
うわぁあッ!!
くそ、てめぇら!!
――男に駆け寄ろうとするも、電脳ラッパーの攻撃で近づくことができない。
た、助け――
――電脳ラッパーたちが男を連れていってしまう。
待て!!
……くそっ! 見失ったか。
行き先はきっと処刑場っす。 場所は明かされてないって話だったっすけど……。
どうするよ。 アテがねぇなら、足で探すしかねぇか?
そうこうしてる間に、処刑されちまうかもしれねぇ。 できることなら、場所の目星をつけておきたいが。
さっきの男性のログを追ってみます
……【MIRA】のAIに妨害されているのか うまく特定できないと、みなさんに伝えた。
あちらさんも対策済みってわけか。 となると……。
――実習生のスマホの通知音が鳴る。
通知音に気づき、スマートフォンを確認する。 そこには、謎アプリから情報が送られてきていた。
これは、座標……?
これまでの謎アプリの挙動を考えると、 おそらく次に向かうべき場所―― 処刑場の位置を示したものだろう。
手持ちのマップに座標を入力すると、 とある大型商業施設を示している。 みなさんにスマホの画面を見せた。
処刑場がここに……?
確かに建物は大きいっすけど 中はお店がいっぱいっすよね? そんなスペースがあるとは思えないっす……。
ンなとこにあったら さすがに誰か気づきそうだしな。
だな。そんなに目立つ場所にあれば とっくにみんな、処刑場の存在を知ってるはずだ。
敷地内のどこかに隠されているとか……
なるほどな。立入禁止のエリアなり 外から見えない場所なり、可能性はありそうだ。
獄、相手はお前の【ゴースト】だろ。 何か心当たりねぇのかよ?
だから、俺を元にしてるだけで俺じゃねぇ。
……だが、仮定から推察することはできる。
あいつは、犯罪歴のある者が 日の当たる場所を歩くべきじゃねぇと思ってる。 となれば、おそらく――
地下か!
地下っすね!
よっしゃあ、そうとわかれば乗り込むだけだ! いくぞお前ら!
――……
――VRナゴヤ 大型商業施設
獄さんの予想と謎アプリからの座標をもとに、 大型商業施設にやって来た。
その地下に広がっていたのは――
地上の商業施設とは似ても似つかない、 異様な空間だった。
これは……。
どうやら、当たりらしいな。 処刑場の名前の通り、嫌な感じのする場所だぜ。
同感だな。 さっさと進んで、【ゴースト】をぶっ飛ばすぞ!
待て! 【ゴースト】のほかに、どれだけ敵がいるか わからねぇんだぞ。
そうっすよ! 捕まってる人たちに危険が及ぶかもしれないし こっそり助け出すって手も――
――壁面モニターに獄の【ゴースト】が現れる。
よぉ。善良な市民諸君。 街の清浄化への協力、感謝する。
!!
皆の協力もあって、今日は指名手配犯をひとり 捕らえることができた。
こいつだ。
た、助けてくれ! 俺に、やり直す機会を……!
あれは…… さっき保護しようとしてた人っす!
ああ。それに、【ゴースト】のほかにも 電脳ラッパーが大勢いやがる……。
この男の罪状はふたつ。 ひとつ、「過去に交通事故を犯したこと」。 ふたつ、「この世界での裁きから逃げ続けたこと」だ。
うう……っ。
平等で平和な世界のため、 俺はこいつに裁きを与える。
その精神エネルギーを捧げ、 【MIRA】の礎になるんだ。
そうしてお前は、現実でも苦しみ続ける。 その命が尽きるまでな!
た、助けてくれ…… 誰か……!
懺悔する時間くらいは与えてやる。 罪を悔やみ、己を恥じるがいい!
…………ッ。
お前ら。 ……強行突破だ。
獄さん……?
ちんたらしてる暇はねぇ。 俺の目の届くところで 私刑なんざ、やらせてたまるか!
いくぞ!
時間だ。 そいつを処刑台に縛りつけろ!
ああ、そうだ。 カメラの向こうの観客に、よく見えるようにな。
うう……っ。
待て、【ゴースト】!
……よう、もうひとりの俺。 お前もこいつに裁きを与えにきたのか?
んなわけねぇだろ! 今すぐ処刑を中止しろ!
なぜ止める? 裁きは、平等で平和な世界のためにある。
それを行う正義は、 お前の中にもあるはずだろ?
――――!
俺はな。 平等で平和な世界を創るためには、 一点の曇りも許さねぇ。

だから、あらゆる罪を徹底的に裁く。
それが俺の、正義だからだ!
……なるほどな。 それがお前の考えってわけか。
まさか俺の【ゴースト】が、法を無視して 正義を語るとは……笑えねぇな。
ふん。反論があるらしいな。
当たり前だ。 主義主張を無理やり押し通そうとするのは ただの暴君だ。そうだろ?
はっ。結構だ。 正義とは俺。俺に反する奴は悪だからな!
マイクを出せ。 俺を暴君だと言うなら お前の正しさを証明してみせろ!
ふぅ、しょうがねえ。 俺とお前の論議は、どこまでいっても平行線だな。
――実習生。 マイクの封印解除を頼む。
わかりました……!
強い方が勝ち、勝った方が正義。 わかりやすいだろ?
別に、正義を押しつけるために戦うわけじゃねぇよ。 ただ俺は、お前の主張が気にくわねぇだけだ。
正しさってのは、 ひとりの主観で決めるもんじゃねぇ。
万人を公平に扱うために法があり、 俺たち弁護士がいるんだろ。
てめぇのやってることは、 ただの独裁だ!
法だのなんだのってのは よくわからねぇが……
てめぇが言い張るそれは、 他人の道を断つためのもんだ。
なら、拙僧の説法が必要だろうよ!
自分も、むずかしいことは よくわからないっすけど……
平等って、ひとりの言い分に 支配されるものじゃないと思うっす……!
俺には我慢ならねぇもんがふたつある。

ひとつ、「喫茶店で大声で喋る奴」。
もうひとつは、 「自分の主張を押しつけてくる奴」だ!
――マイクの封印が解除される。
いくぜ、お前ら!
さあ、どっちが正しいか決めようじゃねえか!
――……
ばかな……ッ!!
嘘だ、正義が負けるわけがない。 なぜだ……!
……いいや、違う。 負けたということは、俺の正義は 間違ってたってことか……?
そう落ち込むな。 俺から勝ちを取るってのが無謀なだけだ。
それに、人にはそれぞれ正義がある…… 少なくとも、そいつにとっては間違いじゃねぇ。 善悪だって、人が勝手に決めるもんだ。
だが、この世には法律ってもんがある。 それぞれが自分の主義主張だけで行動したら、 世界はとんでもないことになっちまうだろ。
お前が法律を無視して私刑を行ったのは 褒められたことじゃねぇ。 だが、裏を返せば……
お前は、誠実に生きてきた人間を 守ろうとしてたわけだ。 それについては、情状酌量の余地がある。
だからまずは、自分のしちまったことを受け入れて よく考えろ。
お前が自分の罪を受け入れ、償った先には…… また違う世界が見えてくるだろうよ。
…………。 罪を償った先、か。
その先にあるのが、お前の思う法であり…… 正義なんだな。
さてな。 正しくあろうと思ってはいるが…… 100パーセント正しい答えを選べるかはわからねぇ。
だが、間違った先にも 人生ってのは続いてくんだ。
それが、より良い方向へ向かうように―― 努力する価値は、あると思うぜ。
ふっ。そう、か。 俺も、この罪を償った先に、新しい世界が――
ああ。待ってるぜ。 その時は一緒に、酒でも飲むか。
――獄の【ゴースト】、消えていく。
こうして、VRナゴヤでの一件は終わった。
処刑場に捕らわれていた人たちは 無事にログアウトし、現実で苦しむこともなくなった。
だが【ゴースト】が行っていた処刑は ヒプノシスマイクによる精神攻撃であり、 ダメージを受けた人たちは、すぐには動けないようだ。
「時間はかかるかもしれないが、 回復の余地は充分ある――」 その報告は、自分たちの心を少しだけ軽くしてくれた。
――……
それで、その後どうだ? 苦情の件数は。
獄さんたちのおかげで、落ち着いたようです
獄さんが見抜いた通り、苦情のほとんどは 未帰還者を救出したことにより取り下げられた。
集団訴訟は免れ、開発会社としても できる限りのフォローをしている状況だ。
そうか。そいつは良かったぜ。
なぁにが「良かったぜ」だ。 自分もこっそり見舞いに行ってたくせに、 他人事みたいに言うじゃねぇか。
おい、それを言うなって……!
いいだろ別に、事実なんだからよ!
そうだったんですか?
獄さん、あの人たちの経過を心配してて……。 よく、お見舞いに行ってるんすよ。
おい十四! お前まで……!
……はぁ。 まあ、元はといえば 俺の【ゴースト】がしでかしたことだからな。
【ゴースト】と同じ姿の俺を見て、 複雑に思う奴も多いだろうが…… まあ、できることはしてぇと思ったんだよ。
ありがとうございます
よせ。別に、お前たち開発会社のために やってるわけじゃねぇ。
見舞いに行けば、 自然と【ゴースト】のことを思い出す。
あいつは俺自身じゃなかったが…… 道を踏み外した俺は、 ああなっちまうのかもしれねぇ。
そう思って、俺自身を戒めるためにも 必要なことなんだよ。
だから……まあ、気にすんな。 俺は俺の、お前はお前の やるべきことをするだけだ。
獄さんの言う通りだ。 自分は自分なりに、 この状況や【MIRA】と向き合えばいい。
自分のやるべきこと―― その先に、【MIRA】の進む未来も ひらけていくはずだからだ。
――……
――謎アプリの画面にノイズが走る……
――――
――――――――
